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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
血濡れの守護天使
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第12章-9 血濡れの守護天使

「ここも反応がないの?」


 ジュリはイラついた様子を見せながら、助手席から後部座席に向かって振り返る。

後部座席には、指輪を握りしめたフランクがうつむきながら首を横に振った。


「まあ、落ち着けよ」


 いつものスポーツカーが人数の都合上使えなかったため、レンタカーである黒のシビックを運転することになったジョンが妹であるジュリをなだめる。


「全部の死体遺棄現場を回っても反応がないとなると、後は闇雲に探すしかないぞ。どうする?」


「そうね。 ……ん?」


 ジュリは死体遺棄現場となった現場であることに気がついた。

ジョンも釣られてジュリと同じ方向に視線を向ける。だが、そこには犯行現場を保護する黄色と黒のテープ、生ゴミを掛けるネット、一部が割れた青いプラスチック製のポリバケツだけであった。


「どうした?」


「あの花、ここにも咲いているわ」


「真冬じゃあるまいし、花の一輪や二輪咲いているだろう?」


「咲いている時期がおかしいのよ。あの花、”スノードロップ”だわ。10月の始めに咲いているのは妙だわ」


 そこには、ゴミ箱の脇に小さな白い花をつけたスノードロップが生えていた。


「確かに妙だ。だがあの天使と何の関係が?」


「……”天使の花”だ」


 今まで黙って話を聞いていたフランクが、ぽつりと声を出す。

その声にジュリとジョンが振り返る。


「あの花は、私の故郷のフランスの修道院にたくさん咲いていた。スノードロップは聖母マリアの花として、聖燭祭で儀式に使われるんだ。また、別の由来で……」


「別の由来は、天使の花ね。一説によると、アダムとイブを慰めた天使の息吹の1つがスノードロップだとか」


「ああ。そして、私の指輪を見て欲しい」


 フランクは今まで力強く握っていた指輪を、2人に手の平に見せるように差し出す。

その指輪には変色して変形していたが、花の装飾があしらわれていた。


「見づらいだろうが、この装飾は”スノードロップ”だ」


「なら、私たちが探している”天使”の手がかりになりそうね」


 そう言うとジュリは車を降りて、辺りの臭いを嗅ぎ始める。

少しして、ジュリは近くの路地裏を指さす。


「あっちから同じ香りがするわ。ついてきて」


 ジュリが路地裏に消え、その後をジョンとフランクが後を追う。車を降りるときに、ジョンは車からジュリの黒革のボストンバッグと自身の金属製のトランクを両手に持って駆け出した。

ジュリはスノードロップの香りに導かれて、うねうねとした細い路地を右へ左へ歩く。時には他人の庭を横切り、壁を乗り越えても、達樹はその歌声の元へと導かれるように歩き続けた。

そしてジュリたち3人は、ある廃マンションの前に立っていた。


「ここから、強い臭いが」


 ジュリは立ち止まって、廃マンションの屋上を指さす。

ジョンは無言でジュリのボストンバッグを手渡すと、ジュリは中から愛用の大型チェーンソーを取り出す。ジョンもトランクから手榴弾や閃光手榴弾、デザートイーグルを身につける。


 だが、ここまで従順についてきていたフランクがふらりと廃マンションに歩いて行く。


「ここに、セラが……!」


 ジュリとジョンが一瞬だけ目を離した瞬間、フランクは廃マンション目掛けて走り出す。


「セラ! セラ! 私の! 私だけの! セラ!」


「待ちなさい!」


 ジュリはフランクを制止するが、全く意味を為さない。

そしてフランクの背をジュリとジョンが追いかける。


 フランクは廃マンションに飛び込むと朽ちたコンクリートの階段を3段飛ばしで昇っていく。

フランクの髪にクモの巣が掛かり、手の平は手すりに積もった埃によって真っ黒になるが、フランクは意に介さずに歩を進めて遂には屋上に通ずる扉の前へと立つ。


「セラ! セラ! セラ!」


 数秒遅れて屋上に着いたジュリとジョンの目に飛び込んできたのは、暗い中に淡い光を纏い、その背よりも大きな白いを持つ女の姿。

そしてその天使の陶磁器のような細腕に捕らわれながらも、恍惚な表情を浮かべるフランクの姿だった。



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