第12章-8 血濡れの守護天使
静かな教会に響くすすり泣く声。
フランクが大粒の涙を床にこぼす。そのフランクの姿を無言で見つめる。
「わ、私はただ、彼女を、セラを自由にしたかったんだ……。 そうすれば、か、彼女は私に、振り向いてくれると……。 彼女は、セラはずっと一緒に居たんだ。あの美しい髪、澄んだ眼、魂が震える歌声、白くて無垢な指先……」
「……何が言いたいの」
「私は! セラを愛していたんだ! だから、きっと、絶対に、セラも、私を、愛してくれて!」
「何で彼女は、愛していたアナタの元から去ったのでしょうね?」
その一言で、再度ぐったりとうな垂れるフランク。
先ほどまでの興奮して泣きわめき、まるでだだっ子のような勢いは一切ない。ただただ、むせび泣く声が響くのみであった。
「アンタ、あの天使を解放したんだよな? なら、あの天使の居場所ぐらいは分からないのか?」
「……方法は、ある。だが、条件がある」
「条件?」
ジョンが声を上げ、ジュリは無言で眉をひそめる。
「私も、セラの元に連れて行って欲しい」
ジュリは大きなため息を吐き、無言で首を横に振る。
ジョンの方も、同じように大きなため息を吐く。
「ここで無理にでも締め上げても良いんだけど?」
「……やってみるが良いさ」
ジョンが再度締め上げるべく手を伸ばし、残った手で腰に隠したナイフを出しながら一歩踏み出したのを、ジュリが手で制す。
「何で止める? 死ぬまで痛めつければいつか情報を吐くだろ?」
「……時間の無駄よ。彼は口を割らないわ。この表情と言動を見ていれば大体は分かるわよ」
「……わかった」
ジョンは残念そうにナイフをしまうと、近くの長いすに大きな音を立てて座りこむ。
ジュリはフランクに視線を反らさずに、ジッと見つめる。
「条件は、飲むわ。その方法って?」
フランクは服に隠していた首に掛けたネックレスを2人に差し出す。そのネックレスには無残にも砕けた指輪がぶら下がっていた。
元は美しい白金だったものが、今では色あせて暗い茶色に変色していた。
「これが、彼女に近づくと反応するんだ。 ……毎晩、毎晩セラを探しているのに、まだ、反応がないんだ」
「じゃあ、しらみつぶしに行くしかないわね。早く行きましょう」
ジュリがジョンに合図を送ると、ジョンは立ち上がり先に礼拝堂を出て行く。
次にジュリが礼拝堂を出、数分ほど遅れてフランクも礼拝堂を出る。
そうして3人は暗くなりつつなる街に、天使を探しに出るのであった。