第12章-5 血濡れの守護天使
鍵を持った飯田を先頭に、ジュリとジョンが廊下を歩く。
時々、別の課の人間が3人の横を通り過ぎるが、誰1人気にする者は居なかった。
「いつも、お前たち2人は突然やってくるんだな。社会人なら、アポイントメントを取るのがマナーだぞ?」
廊下が終わり、無機質な階段を降りながら飯田はジュリとジョンに向かって不満を漏らす。
3人が階段を降りる度に、3人が履いたサンダルがぱたぱたと音を立てる。
「あら、一応私は、まだ学生よ?」
「知っとるよ。最初に会ったときは、まだ高校生の頃だったか」
「あれ、ジュリ、そうだったか?」
ジョンがジュリに顔を向けながら尋ねる。
ジュリは少しだけその問いに考えを巡らせながら、口を開いた。
「いえ、初めて会ったのは中学生の頃だったわ」
「そうか……いや、時間が流れるのは早いものだなぁ。私も老いるわけだ」
「最初に会ったときと、変ってないわよ。合鴨先生の腕も顔もね」
「全く、そのあだ名は止めてくれよ……そら、もう着いたぞ」
階段を降りた地下のフロアに着いた飯田は、目の前にある大きな銀色をした扉の鍵を開けながらジュリとジョンに
声を掛ける。そして2人を促すようにして飯田が先に部屋の中に入り、その後にジュリとジョンが続く。
3人が入室したのは、死体安置所兼解剖室。部屋の中央には手術台が2つ並び、部屋の隅にはパソコンとそれを置くデスクが完備されていた。
そして床には、血を流すためか全面タイル貼りであった。
「あの被害者の遺体はどこだったかな?」
いつの間にやら、長靴に履き替えた飯田がパソコンの置いてあるデスクを漁っており、その手には数枚の書類が握られていた。
少しして、目当ての書類を見つけたのか2人に向かって飯田が手招きをする。
「そこの8番の戸棚に入ってるよ」
「分かったわ」
飯田が指さす先には大きな長方形の戸棚がいくつも並び、それぞれに番号が割り振られていた。
ジュリはまるで自分の家のようにその中の1つの戸棚に近づくと、取っ手を思いっきり引く。
軋んだ音を立てながら、ゆっくりと開かれたその中から、顔の皮を剥がされ、目と舌を抜かれた無残な死体が現れた。
「こんにちは、目撃者さん?」
ジュリは冷たくなった被害者の少年に語りかけるのであった。




