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第2章-5 妖精博物館

収蔵庫に着いたジュリとジョンは、扉を乱雑にノックする。すぐに中から悲鳴が2つ響いた。

中に人が居ることを確認したジュリは扉を開けるべく、チェンソーのエンジンを吹かすと、一気にその刃を扉に突き立てた。

1分程して、扉の鍵の部分を壊したジュリは隣に立っていたジョンに合図を送る。


「いくぞ」


 ジョンは散弾銃を構えたまま扉を思いっきり蹴りつけて、中に突入する。その背をチェンソーを構えたジュリがカバーする。

中に入ると、40前後の化粧が濃く中年太りした女と、その女性と同年代だろうが対照的にガリガリに痩せた男が棚を盾にして隠れていた。


 ジュリはその2人を交互に見つめる。


「単刀直入に聞くけど、どっちが”マザー”を蘇らせたの?」


ジュリは2人を見つめながら、脅すようにチェンソーのエンジンを吹かした。


1歩前に出たジュリに恐れをなしたのか、2人はガタガタと震え始める。


「ひっ……わ、私は何も知らない。そこに居る女に、館長に頼まれただけだ……」


男の方が震えながら、女を指す。


「た、田島!?あんたが言い始めたことでしょう!?」


お互いに罵倒し合う2人。その罵倒から、男は田島、女は柳という名前だと分かった。


 「この期に及んで、責任のなすりつけ合いとはね」


ジュリはうんざりした表情を見せる。そして隣に立つ、兄に合図を送る。


「話が通じないみたいだし、シンプルなやり方にするか」


ジョンは懐からタバコを取り出すと、口に咥える。さらにポケットからジッポを取り出すと、そのままジュリに手渡した。


「そうね。田島と言ったかしら? ちょっとこっちに来てくれる?」


ジュリは田島に向けて手招きする。田島はその言葉にびくりと反応すると、びくびくしながら叫ぶ。


「わ、私はだまされないぞ! お前らは、俺を殺しに来たんだろう!?」


「今すぐ死ぬのと、こっちに来るか、早く選んでくれる? 時間がないの」


ジュリはイライラしたように、チェンソーを空吹かしする。

その言葉を聞いた田島は、観念したようにジュリたちの方に近づいてくる。額には、脂汗が浮かんでいた。


「な、何をする気だ!?」


「な~に、ちょっとした検査だよ」


ジョンはそう言うと、田島を羽交い締めにする。


「ひっ、やめ……」


ジュリは田島の腕を掴むと、そのままジッポで腕を(あぶ)り始めた。炙られた部位は水泡が浮き、そのまま火の熱ではじける。ジュリがジッポを遠ざけたときには、5センチほどの熱傷になっていた。

ジュリはもう一度ジッポを点けると、今度は兄のタバコに火を点けた。


 ジョンは羽交い締めにした田島を横に投げ捨てると、タバコを大きく吸い込んだ。


「じゃあ、向こうの女が”マザー”だな。全く、あんな大量に産みやがって」


「そうみたいね」


ジョンは柳の方にタバコを投げる。タバコはやや放物線を描きながら、柳の眼球に当たる。柳は飛んでくるタバコを避けようともせず、まばたきすらしていなかった。

柳はぶるぶると痙攣けいれんし始める。ジョンは素早く散弾銃を構えると、柳に向けて発砲する。辺りには重い音と、金属同士がぶつかったような甲高い音が響いた。


 柳は顔面の皮膚をまき散らしながら、ジョンに近づいてくる。ジョンは撃ち続けるが、堅い何かに弾かれるように、甲高い金属音がこだまするだけであった。

ジョンの目の前まできた柳は、ズルリと”柳自身”を脱いだ。いや、柳の皮膚を服のように着ていたと言った方が正しいのか。皮膚を脱いだそいつは、赤黒い粘度のある液体を身にまとっているようであった。

人間の体、トンボの頭……そいつは人間よりも大きいフェアリーであった。そいつは”妖精のマザー”と呼ばれる、巨大な虫人間であった。


 そいつは赤黒い粘液をまき散らしながら、ジョンの首を掴み持ち上げる。ジョンは抵抗しようと散弾銃を至近距離で発砲しようとするが、いくら引き金を引いても散弾銃が火を噴くことはなかった。


「くそがっ」


ジョンはせめてもの抵抗で空になった散弾銃で殴りつける。


「兄さん!」


ジュリはジョンを助けようとするが、チェンソーの刃がマザーの腕に触れても、肌色の皮膚の下に黒い甲殻が覗かせるだけであった。

それどころか、チェンソーの刃を弾かれたジュリはマザーに横に薙ぎ払われる。ジュリは大きく吹き飛ばされ、壁にぶつかって動かなくなる。

マザーは手に持ったジョンを振り回すと、ジュリと同じように壁に投げ捨てた。


 マザーは田島の前に立った。田島は這いずりながら逃げようとするが、すぐに掴まってしまう。


「ひっ、お、お前を……ここに、呼び出したのは、わ、私だぞ!」


マザーは田島のその言葉に反応を示さず、田島を正面から抱きしめる形で持ち上げた。


「な、何を、するんだ!」


マザーの下あごが大きく開かれた。大きく頑強なあごとは対照的に、口内は細かいおろし金のような歯が並んでいた。田島は恐怖の余り、股間の辺りに大きなシミを作り、足下には生暖かい液が広がった。


「なあああっあ”」


マザーはそのまま、田島の頭にかぶりつく。田島の頭はおろし金のように削られ、皮膚が裂けて血が流れる。田島は両手でマザーの下あごを開けようとしていたが、そのうち、クルミが割れるように田島の頭蓋が砕かれた。田島はもはや抵抗を示さず、体は痙攣し、マザーに脳を吸われるのに合わせて右足がタップダンスをするように動くのみとなった。


 壁にぶつけられ、頭から血を流したジュリが壁に手をつけながら立ち上がる。


「呪物を常に持ってなきゃ、術者が喰われるなんてお決まりでしょうに」


立ち上がったジュリに向けてマザーはその視線を向けると、威嚇をしながら近づいてきた。その声に触発されたのか、フェアリーたちも通気口から湧き始める。暗闇から湧くそれらは、醜悪な鳴き声を上げてジュリとジョンを取り囲み始めた。


 そのとき、ジュリの携帯電話から軽快な音楽が流れ始める。


 同時に、博物館が火の海に包まれた。

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