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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
オルハ評議会
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第11章-11 オルハ評議会

ジュリたち3人がクルージングボートに乗り込んで、半日ほど経った後。

空には星明かりしか見えず、ボートのエンジンの音のみが辺りに響いていた。


 ボートのデッキに、人影が1人。その人影は顔に掛かる波飛沫を気にも止めずに、ボートの先を見つめていた。 

その人物はショートカットの髪をかき上げると、手元置いてあったペットボトルの水を口に含む。


「まだ、目的地には着かないのかしらね」


 その人影はチェーンソーを手に持つジュリであった。

空と海の境目すら分からない暗い海上を、ジュリは神経を研ぎ澄ましてひたすらに目を凝らす。

だが、ひたすらに目を凝らしていても、見えるのは引きずり込まれるような闇ばかりであった。


 だが、突然ジュリの目に小さな明かりが飛び込んでくる。

その豆粒のような明かりが段々と大きくなるにつれて、その光の元が陸地の波止場であることが分かった。

ジュリは操舵室ににて舵を握る鈴に声を掛ける。


「あそこが目的地なの?」


「ええ、そうですわ!」


「ここは、静岡県か……?」


 今までキャビンで横になっていたジョンがのそりと起き出すと、ジュリの横に立ち、波止場を見つめながらぼそりとつぶやく。

その波止場の先、近くに見える山。その山は、暗がりの中でも存在感を主張していた。所々街明かりから窺えるその山の名は、富士山。

 ジョンは現在地をぼんやりと掴みながら、さらに詳細な地点を探るべく、波止場に目を向ける。

港には明かりが1つだけ付いており、その下に男が紫煙を吹かしながら立っていた。男は黒のスーツに身を包み、


 鈴もその男の存在に気がつくと、舵を操作しながら空いた左手でスマートフォンを弄る。

そのままスマートフォンを耳に当てて、波止場に居る男を見つめる。鈴が発信すると同時に、男の携帯も反応したのかポケットをまさぐっているのが見て取れた。そして男が携帯電話を操作すると、そのまま耳に当てた。


「ハイ」


「もしもし、アナタはどなたですの?」


「お嬢をお迎えに上がりました。待ち合わせの時間通りに来れたと思っていたんですが?」


「……そうですわね。ところで、ワタクシたち以外の岩手支部の人たちは無事ですの?」


「ええ、もう”こちら”に全員揃っておいでです。近くに車を回してあるんで、早く行きましょう」


「分かりましたわ」


 鈴はスマートフォンをポケットに仕舞うと、ジュリとジョンに声を掛ける。


「ジュリさん、ジョンさん、今回の件はありがとうございました。ここで依頼は完了ですわ」


「ここで良いのか?」


「ええ、後はワタクシ1人で大丈夫です。これが今回の依頼料ですわ」


 鈴はボートの棚を開けて小切手帳を取り出すと、金額を書き込んでジュリに手渡す。

ジュリは小切手を受け取ると、その額を見て眉をひそめる。


「ねえ、この依頼料なんだけど、最初の提示額よりも多いじゃない」


「それはちょっとした気持ち分ですわ。また何かあったときはお願い致しますわね?」


 そんなやりとりをしている間に、ボートは波止場に接岸する。

紫煙を吹かしていた男は吸っていたタバコを足でもみ消すと、岸側にしっかりと結んだロープをボートへと投げる。


 ジョンはそのロープをボートにしっかりと結ぶ付けると、備え付けのタラップを岸へと下ろした。

タラップが降りたことを確認した鈴は、駆け足でボートを下りる。そして、ちょうど船を下りたところで2人に振り返ると、ボートのエンジンキーを2人に向けて放り投げる。

ジョンはエンジンキーを空中で受け止めると、小首をかしげる。


「それはオマケで差し上げますわ」


 それと同時に、漆黒のセダンが鈴の横に着く。運転手は先ほどのタバコを吸っていた男であった。

鈴は男に合図を送ると、後部座席へと乗り込んで、窓を開けて手を振る。


「それでは、ご機嫌よう」


 そうして、セダンは闇の中へと消えたのであった。セダンが消えた後には、波音と時々聞こえる遠くからのクラクションの音以外には何も聞こえなかった。

後に残されたジュリとジョンは、2人して大きなため息を吐くと、ボートで帰路に着いたのであった。



*


人気のない街の1車線しかない小さな、街灯もまばらにしかない道路。その道路を走る1台の漆黒のセダン。

運転席でハンドルを握る黒いスーツの男は、後部座席に座るポニーテールの女性へと話しかける。


「それにしても、お嬢。よくご無事で」


「まあ、色々ありましたけどね。流石にあんな化け物が来るとは思いませんでしたわ……やはり、助っ人を頼んで正解でしたわ」


 そう話しながらポニーテールの女性、篠生 鈴は岩手支部から大切に持ってきた荷物の包み紙を乱雑にはがし始める。

包み紙が全て剥がれると、出てきたのは長方形の30センチほどの桐の箱。


「それが”祝福されし仔ら”からの預かり物で?」


「ええ、そうですわ」


 鈴が桐の箱をゆっくりと開けると、そこには綿に包まれた”ミイラ化した人間の右腕”が納められていた。


「”聖テレサの右手”。こんな聖遺物なんて、バーカー修道士は何をするつもりなのかしら?」


 鈴は右腕に損傷が無いか手にとってじっくりと観察する。その様子を見ながら、スーツの男はふと、ある疑念を鈴へとぶつける。


「お嬢、1つ良いですか?」


「ん、なにかしら?」


「他の組が持っていた荷物の中身は何だったので?」


「ああ、それは”最高級のわんこそばセット”よ。お土産にはちょうど良いでしょう?」


 暗い夜道の中、鈴の楽しそうな笑い声がいつまでも響いていたのであった。



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