第11章-10 オルハ評議会
巨大な製造プラントが”燃えさかる男”へと倒れる。同時に、製造プラント付近から、水によく似た液体が降りかかる。その液体は破れた配管から、白い靄を伴い、大量に流れて吹き出る。
最初は倒れたプラントから、激しく殴打していた音が聞こえていたが、それもつかの間。
先ほどまで耳が痛くなるほど鳴り響いていた殴打の音が止み、後には水が滴る音、蒸気が漏れる音、そして微かな機械の作動音が残るのみであった。
ジュリは製造プラントの上から、押しつぶされた”燃えさかる男”を覗き込む。
そこには、先ほどまでの溶けた鉄のような赤みを発していた”燃えさかる男”は影も形もない。
あるのは製造プラントの重みに耐えきれなくなったのか、粉々に砕けた黒い塊片だけであった。
「これでようやく、終わりみたいね」
「ああ……急いで船のある海岸まで行くぞ」
”燃えさかる男”に殴られた肋を押さえながら、ゆっくりと立ち上がったジョンはジュリの歩み寄る。
肋が数本は折れているのか、その足取りは重い。
「ところで、アナタはそのままの格好じゃあ目立つわよ?」
ジュリは目の前に立つ巨熊に話しかける。
その巨熊は低くうなり声を上げながら、その巨体を揺れ動かす。同時に、凶悪な見た目に反して、結んだポニーテールが巨体が揺れる度に、自己主張をするように揺れている。
「猟友会に駆除されたいなら別だけど?」
そう言うジュリを鋭く睨み付けると、巨熊が激しく身を震わし始める。
同時に、その身が見る間に小さくなっていき、巨熊の居た場所にはその半分の大きさもない鈴が立っていた。
「うるさいですわよ」
「冗談よ」
ジュリはクスリと笑うと、近くに置いてあった鈴のトレンチコートを投げて渡す。
投げられたトレンチコートは、鈴に向かって空中ではためく。鈴はそれを鷲づかみで受け取ると、すぐさま羽織る。
「とにかく、急いでここから離れないとね」
ジュリたちは足早に、工場の搬入口から海岸に向かって歩き出す。
3人が工場を出たところで、遠くからサイレンの音が段々と近づいてきているのが聞こえるのであった。
3人は警察に見つからないように素早く住宅街を抜けて、海岸へと辿り着く。
時刻はちょうど、水平線に朝日が昇り始める直前。それは最も暗い時間帯。
海岸に立った鈴が、海岸に向かってポケットからペンライトを取り出すと水平線に向かって合図を送る。
少しして、朝日を背にして1隻の小型ボートに乗った男が、3人を迎えにきたのであった。
鈴が小型ボートに乗った男と2、3話しをすると男はボートから下りてどこかへ走り去る。
「さあ、行きましょう?」
鈴が小型ボートを指さして、ジュリとジョンにそのボートへと乗るように促す。
ジュリとジョンがそのボートへと乗り込むと同時に、鈴はボートをフルスロットルで水上へ走らせる。
ボートのスピードで、ジュリの髪がはためき、細かな飛沫が肌をうつ。
しばらく、ボートに揺られていた3人であったが、沖に小さくクルージングボートが停泊しているのが見える。
「アレがワタクシたちの船ですわ」
鈴は小型ボートをクルージングボートに乗り付けると、素早くデッキへと飛び乗る。続いてジュリとジョンも続いて飛び乗ると、今まで乗ってきた古賀とボートを切り離す。
そのクルージングボートは30フィートはある大きいボートであった。鈴はそのまま操舵室に乗り込むとエンジンを掛け、舵を切る。
そうして3人はようやく追っ手を振り切り、クルージングボートで目的地へと向かうのであった。




