第10章-6 人家(じんか)
プラスチック爆弾は爆炎と炸裂音を伴いながら爆発をする。
部屋は大きく揺れるが、先ほどからジュリとジョンがふすまに向かって死体の群れを投げて壁にしたことから、2人はかすり傷で済んでいた。
「ようやく、開いたわね」
ジュリが爆破されたふすまを見やると、そこには血濡れになっていたふすまが、ぽっかりと穴を開けていた。
穴の開いたふすまの断面から、血がとめどもなく流れ落ちる。
家鳴りが、ひどく不規則に、そして先ほどに比べて大きく聞こえていた。
「早くここから出るぞ!」
ジョンは目の前にいる白骨死体を蹴り飛ばすと、素早く穴をくぐり、外へと脱出する。その後ろを、ジュリも駆けながら付いていく。
2人が外に出ようとするのを止めようと、今まで畳に転がっていた白骨死体群も立ち上がり、後を追う。
「本当に、しつこいわね」
ジュリは部屋の外に一歩出ると振り返り、チェーンソーを構えて、自身に迫る死体たちをバラバラに砕きながら、部屋の外に出さないようにする。
ジョンは胸から手榴弾を手に取ると、静かにピンを抜く。
「そらよっ!」
ジョンが手榴弾を部屋に投げ入れるとともに、ジュリは一番前に居た白骨死体を蹴り飛ばす。死体は、骨を周囲にまき散らしながら、後続を巻き込んで部屋の中央へと蹴り飛ばされた。
その瞬間、投げ込まれた手榴弾が、中にいる死体群を巻き込んで爆発を引き起こす。
死体群は一様に爆発に巻き込まれて砕け、バラバラになり、爆発が引き起こした風により破片は宙に舞う。
「いたっ」
その破片の1つが、ジョンの鼻面に当たり、赤い跡を残した。
ジョンは涙目になりながら、軽く鼻先を抑える。
「それで、ジュリ。次はどうする? この先にはもう進めないぞ?」
「そうね……」
ジュリはうつむいて少し考えこんでいたが、すぐに顔を上げる。
「少し戻りましょう」
「何かわかったのか?」
「とにかく、話は歩きながらするわ」
ジュリはそれだけ言うと、入り口に向かって歩き始める。
そのあとを追うように歩き始めたジョンの口には、いつの間に火をつけたのか、たばこが咥えられていた。
ジョンは大きく紫煙を吐き出すと、ジュリの横を歩き始めた。
――ジュリとジョンの兄弟は、入り口に向かって並んで歩く。
ジョンは4本目のタバコに火をつけると、ジュリに視線を向ける。
「それで、何がわかったんだ?」
「そうね。まだ憶測なんだけど、この家自体が怪異そのものなんじゃないかしら?」
その言葉を聞いたジョンが眉間に皺を寄せて、少し考えこむ。そして何かに気が付いたような表情になる。
「さっき居た部屋は”胃”か」
「そうよ、ここは家の形をした巨大な人間よ。そして今いるこの場所は”喉の奥”の辺りね」
ジュリはそういうと、おもむろに壁を観察し始める。ジョンはそのジュリの様子をじっと見ていた。
しばらく、壁を叩いて観察していたジュリだったが、ある場所で立ち止まる。
「ここよ」
ジュリが壁のある地点を指し示す。そこは他と変わらない壁であったが、ジュリがその場所を指で押すと、指がめり込んでいく。
「ここが柔らかいことは分かったが、何をするつもりだ?」
「ここはおそらく気管の入り口よ」
ジュリはチェーンソーをその壁に突き立てる。その壁は血を吹き出しながら、剥がれ落ちる。
その剥がれ落ちた壁の先は、今までの廊下とは異なり、赤黒く、血管の浮き出たグロテスクな洞穴であった。
「柔らかそうなところを突き破って、心臓を切るわよ」
そう言うと、ジュリは洞穴へと足を踏み入れた。




