第10章-2 人家(じんか)
――ジュリとジョンの兄妹は、警視庁捜査一課第三特殊捜査係の清水が運転するパトカーに揺られていた。
清水は眉間を寄せながら、後部座席に座る兄妹に目線を送る。
「それで、なんでアナタがわざわざ車でお出迎えしてるの?」
ジュリは清水を見ながら、疑問を漏らした。
「呼び出されることはあっても、お出迎えなんて。 ……何か問題でもあった?」
ジュリは清水を見ながら、クスクスと笑う。
「ああ、大問題発生だ」
清水は片手で運転しながらも、空いた片手でその白髪交じりの頭をなでつけた後、眉間を押さえる。
「”こちら側”の人間がやられた」
「あら、珍しい。怪異を狩る側が狩られるなんて」
「ああ、うちの面目が丸つぶれだよ」
「誰がやられたんだ?」
今まで興味がなさそうな様子だったジョンが、身を乗り出しながら清水に尋ねる。
「ナオミとダリオの2人組だ。あの2人、腕は確かだったはずなんだがな」
「噂には聞いていた2人組だな。ナオミはチェーンソーを使うんだっけか? ……そうか。それで俺たちにそいつらの後始末を依頼したい訳だな?」
清水は車を、人の気配がしない路地へと滑り込ませた。そして車が路地で停車すると、清水は運転席からジョンとジュリの方へと振り返る。
「ジョン、お前の言うとおりだ。2人の後始末をお前らに依頼したい」
清水はジュリとジョンの顔を、交互に見やる。
「ええ。構わないわ……場所は?」
清水は助手席に置いた、使い込まれた茶色の鞄を開くと、数枚の紙の束をジュリへと手渡した。
「ここに事件のあらましと、場所が書いてある。確認してくれ」
ジュリは手渡された資料をぱらぱらと捲ると、すぐに内容を理解したのか、隣に座るジョンへと手渡した。
「内容は大体分かったわ。2人は、山の中にある屋敷に入ると言って消えのね」
「そうだ。中で何があったかは、直接行って確かめるしかない」
「結局はいつも通りじゃないの」
ジュリはクスクスと笑い、清水を見る。清水は頭を掻いてため息をついた。
「まあ、そうだな……」
「それはそうと、依頼ならいつも通りで良いのに。 ……どうしてわざわざこんなところで?」
「ああ、それはだな……」
清水は前に向き直ると、アクセルを踏み込んだ。
「お前らが来るとな。警察署の、お前らのファンクラブのやつらが大騒ぎするからだよ」
清水はそう吐き捨てると、さらに強くアクセルを踏み込んだのであった。




