第9章-4 祝福されし仔ら
俺はこのことをジュリ、お前には伝えなかった。
お前がこのことを理解するには幼すぎたし、このことを理解出来る年齢になった頃には、親父が廃ビルで『祝福されし仔ら』と殺し合ったあと、今までずっとそいつら絡みの事件はなかったからな。
昨日までは。
――「これで、親父と母さん、祝福されし仔らの話はお終いだ」
ジョンはそう言うと、胸からタバコを出して、ポケットをまさぐり、ジッポで火を点ける。
タバコを深く吸い込むと、紫煙を天井に吐き出した。
「その話、もっと早くに言って欲しかったわ」
「今までは、言う必要が無かったからな」
「そう」
ジュリはそれだけ言うと、足下に転がる、人狼をさらに切断し始めた。腕の関節、足の関節、腹部、その頭部。その様子は普段のジュリからは考えられないことであった。そして、その返り血が顔についても拭う様子はなかった。返り血が目の辺りに跳ね、一筋の跡を作ったのであった。
しばらく人狼を細かくしていたジュリであったが、気が済んだのかジョンに振り返った。
「早く、帰りましょう?」
それだけ言うと、ジュリは足早に工場の外へと出て行ったのであった。
「後始末が済んだら、行くさ」
ジョンは隣に立つ清水に目配せすると、清水はポケットからスキットルを取り出して、中に入っていたウォッカを口に含む。
「ジョン、お前も飲むか?」
「いや、余り強い酒は嫌いなんだ」
それを聞いた清水は、無言でスキットルに入ったウォッカを細切れになった人狼に振りかける。そしてジョンがそこに火の付いたタバコを吹き入れた。
瞬間、大きく燃え上がる人狼。
そしてジョンは、ジュリを追って工場内から出て行く。
1人工場に残された清水は、スキットルに残ったウォッカを口に運びながらため息を吐く。
「面倒なことになりそうだな……」
清水はいつまでも、燃える人狼を見つめていたのであった。