第9章-3 祝福されし仔ら
母さんの49日が過ぎた頃、俺たち兄妹は家で、俺たちの世話を任された保母さんと留守番をしていたんだ。その保母さんは、親父に『昔、貴方たちのお父さんとお母さんに助けられたご恩があるからね』とか言って、俺たちを自分の子供たちのように接してくれたんだ。
その保母さんと、これからの生活、俺の将来、ジュリの将来。とにかくいろんなことを考えていた時だった。
家の電話が鳴ったんだ。その呼び出し音は、普段と変らないのに、何故か俺には親父のことだろうと感づいたよ。
そして保母さんがその電話を取って、泣き崩れた。
保母さんは受話器を置くと、俺たちに向かって『貴方たちのお父さんが、亡くなったって』と言ったんだ。
俺はもう泣かなかった。悲しさよりも、何というか納得感の方が強かったんだ。
母さんが死んだときの後ろ姿を見て、ああ、もうこの人は生きてもう会えないんだろうなって、思っていたからな。
病院に行って、親父に霊安室で対面したときに、母さんと同じように台の上で横になっていたんだ。半分になってな。
上半身だけになった親父が、そこに居たんだ。顔には、何に引っかかれたのか、大きなひっかき傷がいくつもあった。
その親父の横に立つ、俺ら兄妹を見つめていた看護婦の表情も良く覚えている。あれは、哀れみと憐憫と同情がまぜこぜになった表情だった。
『おとーさん?』
ジュリ、お前は母さんが死んだときと同じように、親父の死を理解出来ていなかった様子だった。
俺は、母さんの時ほど動揺はしていなかったから、親父のことを良く見てみたんだ。
『ねぇ、看護婦さん?』
『なぁに、ジョン君?』
『お父さんはどうして死んじゃったの?』
『えぇと、そうね……』
看護婦さんはまだ子供だった俺に対して、どんな言葉を言おうか悩んでいたようだった。
少しして、看護婦さんは俺らの後ろに立つ保母さんに合図を送ったんだ。看護婦さんと保母さんはお互いにうなずくと、看護婦さんは俺の前にしゃがみ込んで、口を開いたんだ。
『ジョン君。これから話すことは、君にとってショックなことかもしれないけど、良く聞いてね』
俺は看護婦さんの目を見ながら、無言でうなずいた。
『君のお父さんはね、心臓を何かに引き裂かれたことによる、失血死よ』
看護婦さんは立ち上がると、親父に掛かっているシーツを捲り揚げたんだ。親父は心臓の辺りを大きく引き裂かれていたんだ。
『下半身の切断も生前に負ったものだけど、直接の死因はこれよ。』
『何があったの?』
『それは分からないわ…… ただ、交通事故に遭っていないのに、こんな状態になるのは普通じゃあり得ないわね……』
看護婦さんと俺がそんなことを話しているとき、霊安室のドアがノックされたんだ。振り返ると、清水のおっさんが立っていた。
『すみませんが、そこのジョン君と2人で少し話せますか?』
看護婦さんは俺と清水のおっさんを交互に見ると、そっと俺の背中を押したんだ。
『これから辛い思いをすると思うけど、頑張ってね』
俺は清水のおっさんに連れられて、別の小部屋に連れられたんだ。
そこで、親父と母さんが何で死んだのか、何に関わっていたのかを聞いたんだ。
親父と母さんは『祝福されし仔ら』という怪異集団を追っていたこと、そして、奴等の巣を潰しに行ったこと、それで母さんが死んだこと。
母さんが死んだことで、親父は復讐に走って怪異を殺し回っていたこと。
そして、親父の死体はある廃ビルの一室で、多数の怪異の死体とともに発見されたこと。その廃ビルは『祝福されし仔ら』の根城だったこと。
これらの話を、清水のおっさんはかいつまんで俺に教えてくれたんだ。
『お前と俺は、これから長いつきあいになるだろうな。まあ、何かあったら、ここに電話してくれ』
そう言うと、清水のおっさんは自分の電話番号をメモして部屋を出て行ったんだ。