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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
祝福されし仔ら
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第9章-2 祝福されし仔ら

 「父さんと母さんを殺したって、どういうこと?」

ジュリはジョンに向けて視線を返す。

「母さんが、怪異に殺された話はもう知っているわ。でもその怪異は父さんが殲滅したって」


「そうだ。殲滅したんだ。その命と引き替えにな。 ……ジュリ、お前が3歳の時だからもう、17年も前の話になる」


 ――あの日は、寒い日だった。俺たち兄妹は親父と母さんが、いつも通りに異形狩りに出かけたのを見送ったんだ。

お前と俺はこたつに入って、子供向けのテレビ番組を見ながらタマゴポーロを口いっぱいに頬張って、2人の帰りを待っていたんだ。

しばらく経って、表に車が止まったんだ。その車のエンジンの音が、親父たちのじゃないとすぐに気がついたよ。


 そのときの俺は馬鹿だったから、ああ、宅急便かな?って思っていたんだ。ただ、尋常じゃない勢いで扉を叩かれて、宅急便じゃないって分かった。

びっくりしてドアの隙間から覗いたら、警察官が立っていた。

ああ、清水のおっさん、あんたと初めて会ったのは、このときだったな。あのときは、今じゃ考えられないほど、おっさんは焦っていたな。


 扉を開けた小学生の俺に向けて、第一声が

『君のお母さんが大怪我して、病院に行ってるんだ。病院まで君たちを乗せていくから、早く乗って!』だったな。

俺はびっくりして、こたつで寝ているジュリと車に乗り込んだんだ。


 車でおっさんは俺たち兄妹を落ち着かせるためなんだろうが、『お母さんはきっと大丈夫だから!』とか励ましてくれていたよな。

それで、おっさんに連れられた俺たちは、病院に着いてすぐに母さんのところに連れてかれたんだ。


 母さんが居たのは、病室じゃなかった。

霊安室の冷たい台の上で、まぶたを固く閉じていたんだ。

その横で、親父はうつむいて泣いていた。


『お父さん……お母さんは眠ちゃったの……?』

はな垂れボウズだった俺は、母さんが疲れて眠っていたもんだと思っていたんだな。よく母さんは『疲れたー』とか言ってたからな。そのときもそうだと思ったんだ。

ちょっと今は寝ていて、朝になったら『おはようー』って言いながら起きるもんだと思っていたんだ。


 だが、親父は俺が期待していた言葉を言ってはくれなかったんだ。

ただ一言。


『母さんは、な。もう起きないんだよ』


『えっ、どう、いう意味?』


『母さんはな、死んだんだ』


はな垂れボウズの俺は”死”という言葉を知っていたが、理解するには幼すぎた。さらに年下のジュリには、もっと理解出来ていなかったんだ。

しかも、初めて対面する死が、母親だぞ?

俺が呆然としている横で、ジュリ、お前は母さんの腕を揺すりながら『おかーさん、起きて、起きて』って言って。


 その様子を見ながら、親父はしばらく泣いていた。俺はただただ立ち尽くしていた。

しばらくして、涙を拭った親父はどこかに電話を掛けたんだ。

少し話し込んでいたが、通話を切ったときには親父の顔つきが変っていた。

親父はしゃがみ込んで、俺の目を見ながら肩に手を置いて言ったんだ。『お前の妹を、俺の代わりに守れ』ってな。そして、ジュリ、お前の頭を優しくなでると、母さんの横に置いてあった形見を手に待ったんだ。

それは、白銀製の綺麗な天使が彫刻されていたクロスボウだった。

 

 親父は母さんの形見のクロスボウを持つと、そのまま霊安室から出て行ったんだ。親父がそのまま霊安室を出て行った姿は、今でも夢に見る。

それが、生きていた親父の姿を見た最後だったからな。


次に親父と会うのは、母さんの49日を終えた頃だった。

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