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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
祝福されし仔ら
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第9章-1 祝福されし仔ら

これまでの主要な登場人物

奏矢そうやジュリ

大型チェーンソーを振り回し、怪異を狩り続ける。一家で怪異狩りの依頼を請け負っているが、休みの日が潰されることを非常に嫌がる。

都内の理系大学に通っており、専攻は応用生物学科。学年は2年で、20歳。髪型はショートで黒髪。碧眼であり、膝下ぐらいの長さのスカートを(怪異狩りのときも)好んで着用する。

最近、通っていた大学が焼失して、暇になったため良くケーキバイキングに通っている。


奏矢そうやジョン

奏矢そうやジュリの兄で、怪異狩りのときには銃火器を好んで使用する。依頼の時には、妹とともに向かうことが多い。身長178センチで体重は89キロ。髪型はツーブロックで、妹とは違い黒目、黒髪である。怪異狩りのときには、軍用の分厚いジャケットを着込む。

現在年齢は25歳で、日々修行と食い扶持を稼ぐために家業に邁進している。

最近、妹に誘われて、ケーキバイキングの良さを知った。


清水しみず 明夫あきお

警視庁捜査一課第三特殊捜査係、通称”SIT3”(special investigation team 3)に所属。47歳で妻子持ち。

奏矢兄妹に事件の依頼をすることで、協力体制を取っている。個人としては、奏矢兄妹とは、十年来の知人である。甘い物をたくさん食べると、翌日まで胃の調子が悪くなる。


闇を駆ける、異形。異形は、2本足で歩く狼であり、所謂人狼と言ったところか。

その背を追うは3人の男女。ある男は手に持っていた拳銃を人狼に向けると、躊躇なく発砲する。乾いた音が何度も、住宅街をこだまする。

異形は住宅地を抜け、廃工場へと追い詰められていった。


 人狼が廃工場に入るのを見て、3人うちの最も年老いた男が白髪交じりの頭を整えながら、2人に声を掛ける。

「この年で、フルマラソンはきついぜ……」

息も絶え絶えになっている男は、警視庁捜査一課第三特殊捜査係、通称”SIT3”(special investigation team 3)に所属している清水である。

「もう?普段の運動が足りないのよ」

汗の一粒も流さず、涼しい顔で、チェーンソーのエンジンを吹かすのはジュリ。


「まあ、もうこのおっさんも年なんだから、勘弁してやれよ」

ジュリをたしなめつつ、マグナムに特製の銀弾を詰めるはジュリの兄、ジョン。


「年を喰えば、お前らにもわかるさ」

清水は汗を拭うと、辺りの様子を窺う。辺りは虫の音が聞こえている以外は、静かな物であった。

「それで、これからどうするつもりだ?」

清水は拭った傍から垂れてくる汗を無視して、ジュリとジョンに確認する。


「アナタは援護、兄さんと私は突っ込むわ」


「おいぃ? 俺だってそれなりに怪異の相手は経験あるぞ?」


「だからこそ、援護をお願いしたいのよ。経験豊富なら、パニックになって乱射しないでしょう?」


「あ~はいはい。分かりましたよ、お・嬢・様」

清水は悪態とため息をつくと、2人の後ろについた。


 ジュリは破られたシャッターを指さし、隣に居るジョンに合図を送る。ジョンはその開いたシャッターから工場内部に飛び込むと、異形の姿を探す。

それは、工場内部の中央にうずくまっていた。低いうなり声を上げながら、こちらに背を向けている。

ジョンはそれを見るやいやな、異形に向けて発砲する。重い音が4発響く。ジョンのマグナムが火を噴き、異形の頭部の半分が風船のように砕け散る。左胸の辺りにはこぶし大の穴が開き、ポンプのように血液を床にぶちまける。


 よろけた異形にジュリは素早く駆け寄ると、銀の粉を塗布したチェーンソーの刃を異形に目掛けて振り下ろした。銀の粉が刃の回転によって舞い上がり、月明かりを光の粒のように返す。

チェーンソーは異形の頭部と胴体を分断し、大きな音を立てて狼にも似た異形の頭部が床に落ちた。首をなくした胴体は、1,2回前後にふらつくと仰向けに倒れて動かなくなった。


 首が落ちたと同時に軽い金属音が、静かな工場内に響いた。それほど大きな音ではなかったはずなのに、いやに耳に付いたのだった。

ジュリはその金属音の発信源に目をやると、小さな金属片が床に落ちていた。それは、異形の血に塗れながらも、鈍い銀色を妖しく放っていた。

「……?」

ジュリは床に落ちたその金属片を手に取ると、金属片に細いネックレスがついていた。

「ドッグタグ? この怪異の?」

首だけになった異形とドッグタグを見比べながら、ドッグタグについた血糊を指先で拭う。


 ドッグタグには、手を逆さにした形の紋章、そして紋章の下に読めない字が彫り込まれていた。その字は、アルファベット文字でもアラブ文字にも似ていなかった。

ジュリはその紋章を見ていると、2つの視線がそれに注がれているのに気がついた。

後ろを振り向くと、眉間にシワを寄せながらドッグタグを見つめる清水とジョンの姿。


 ジュリはドッグタグを2人に差し出しながら尋ねる。

「ねえ、コレ。何か知っているの?」


ジョンと清水は顔を見合わせると、清水は少し間を置いて口を開いた。

「その紋章なんだが……”祝福されし仔ら”っていうイかれた怪異集団の紋章だ。そんで……」


ここまで話した清水を、ジョンは手で制す。

ジョンはうつむいて頭を振ると、ジュリに視線を向けた。その視線にジュリは身震いする。そこにあったのは見慣れた陽気な表情ではなく、真剣な顔を向ける兄の姿であった。

「奴等はイかれているだけじゃない」


ジョンは一呼吸を置いて語り始める。

「奴等はお前の……俺たちの親父と母さんを殺したんだ」

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