第6章-5 異世界より
ジェットコースターに立ったまま乗るチェーンソーを持った女。女は抜けるような銀色の髪を持ち、顔色は病的なまでに青白い一方で、目は燃えるように赤く、唇は血のように紅い、そして顔立ちはジュリに瓜二つであった。ジュリたちに加速しながら迫るジェットコースター。ジョンは掴んでいた妹の手を再度掴むと、ハシゴまで降ろそうとする。
「ジュリ! こっちに来い!」
ジュリはその手を振り払うと、背負っていたチェーンソーを抜き去る。ジョンはその様子を見て、ジュリが次に行う行動を理解した。
ジュリはチェーンソーのエンジンを吹かしながら、レールの上を駆ける。同時に目の前に迫る加速したジェットコースター。そしてそれの先頭車両に立ったまま乗る銀髪のチェーンソー女、もとい”ニセモノ”のジュリ。
一瞬、碧と紅の瞳がぶつかり合った。
ジュリは自身の目の前にジョットコースターが来た瞬間、レールから飛ぶ。
飛ぶと同時にジュリは横向きにチェーンソーの刃を構えたまま、”ニセモノ”に切り込んだ。胴を真っ二つにする一撃であったが、”ニセモノ”の手に握られていたチェーンソーによって阻まれる。
チェーンソーの刃と刃がぶつかり、火花が散る。ジュリはそのまま、レールを走るジェットコースターの上に着地して、”ニセモノ”を見据える。ジュリが着地したのは全部で5両ある内の3両目であった。
「初めまして、 私の”ニセモノ”さん?」
ジュリはニセモノを見据えて話しかける。強風により髪とスカートが揺れ、右手にはめた、蝶の刺繍がされた漆黒のドレスグローブも風にあおられる。
「……」
ニセモノは何も答えない。言葉を発する代わりに、ニセモノはチェーンソーのエンジンを数回、吹かした。
「アナタがどこから来たのか興味があったんだけど……答えないなら別に良いわ」
ジュリもチェーンソーのエンジンを吹かすと、一歩踏み出す。そのときちょうど、ジェットコースターは坂を下り始めた。ジュリとニセモノの2人は無重力状態になり、黒髪と銀髪が同時にふわりと宙に浮く。
ジュリは座席を蹴り、チェーンソーをまっすぐに突き出しながら、ほぼ落下するような形でニセモノに突っ込んだ。
ニセモノはチェーンソーを横に払い、ジュリの刃を横に受け流すと同時に、右肘で顔を打つようにカウンターを仕掛けた。
ジュリはそのニセモノの肘を、顔をのけぞらせて躱す。ニセモノの肘はジュリの顔を掠める。同時にジュリは体をのけぞらせた状態で、左手を座席に着けると、足払いを仕掛けた。
しかしニセモノは足払いを避けて大きく飛び上がり、2車両目に着地した。
後ろに跳んだニセモノに振り返り、ジュリは独り言をつぶやいた。
「なかなか厄介ね……」
ジェットコースターはレールの上を走る。ジュリとニセモノはにらみ合い、両者とも風により髪は揺れ、スカートははためく。
少しの間、動きはなかったが、ジェットコースターが坂を昇り始めた瞬間、ニセモノが動いた。
「っ……」
ニセモノは大きく跳躍し、チェーンソーで兜割りを仕掛ける。ジュリはその刃を受け止めると、ジュリとニセモノはつばぜり合いをするような格好になった。
刃と刃がこすれ、削れ合い、火花と甲高い音が辺りに撒き散る。
ニセモノは少しだけ、ジュリの刃を上に弾くと、ジュリのみぞおちへ目掛けて、膝蹴りをした。
「うっ……」
膝蹴りは吸い込まれるようにジュリのみぞおちへと入る。ジュリの口から、小さくうめき声が漏れた。ニセモノはジュリに膝を入れた状態で、チェーンソーの刃をジュリの背に目掛けて振り下ろした。
ジュリは背にチェーンソーの刃が迫る瞬間、前屈みの体勢から頭突きを仕掛けた。ジュリの頭突きは、ニセモノの顔に当たり、後方の車両へと吹き飛んだ。
「ごほっ……ごほっ……」
ジュリはみぞおちを蹴られた影響から、数回咳をする。そして、顔を上げてニセモノを見据えた。
2車両目にニセモノは着地し、ニセモノの頬が切れ、一筋の赤い血が頬を流れて床に落ちる。
「アナタの血も赤いのね。意外だわ」
ジュリが再度チェーンソーを構えると同時に、ジェットコースターは坂を下り始めた。
客の居ない遊園地のジェットコースターの上で碧と紅の瞳はぶつかり、黒髪と銀髪は風に揺れ、チェーンソーの刃は火花を散らすのであった。




