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第6章-4 異世界より

ジュリとジョンの2人は遊園地の門に手を掛けて、園内に一歩踏み出した。

突然、辺りが明るくなり、園内に音楽が流れ始める。アトラクションは、錆びた金属の音を響かせながら動き始めた。


「歓迎されているみたいね?」


ジュリは辺りを見ながら、ジョンに話しかける。ジョンは咥えたタバコを投げ捨てると、散弾銃を構えた。


「この前は、ただの廃遊園地だったはずなんだがな」


ジョンは風雨にさらされて、文字が擦れてしまった案内板の前に立つと、再度ミラーハウスの場所を確認する。一度来たとは言え、前回は今回のように遊園地は稼働していなかったため、雰囲気が一変していた。


「結構、ミラーハウスまで遠いな……」


「そうね。 ……ところで、ここのスタッフも歓迎してくれるみたいよ?」


ジュリはその手に持った大型チェーンソーの刃を回転させると、少し先の売店に視線を送った。その少し先にある屋根が半分ほど朽ち落ちたポップコーンの売店から、影が何匹も這いずり出てくる。

ジュリがその影にライトの光を向けると、その影の正体は腕ほどの大きさのムカデであった。


「ミラーハウスまで走るぞ!」


ジョンの構えた散弾銃が火を噴く。ムカデは弾丸をその身に受けると、体液をまき散らしながら千切れる。しかし、胴が半分になっても、速度を落とさずにジュリたちを襲う。

ジュリたちは遊園地を駆け抜ける。売店以外からも、コーヒーカップの中から、チケットの自販機から、荒れた茂みの中からムカデは溢れる。


「流石に数が多いわね」


ジュリは足下に来るムカデを、チェーンソーで薙ぎ払いながらひた走る。チェーンソーの刃を振るう度に、ムカデの手足が、触覚が、内蔵の一部がジュリの後方に飛び散る。


 ミラーハウスまであと少しというところで、前からもムカデの大群が押し寄せてくる。2人は、ムカデたちによって、挟み撃ちにされてしまったのだった。


「兄さん、あそこに昇らない?」


ジュリはジョンに目配せする。その先には、ジェットコースターのレールとそれの点検用の吹き抜けのハシゴが見えた。押し寄せるムカデにより道は他になく、ジョンは散弾銃を撃ちながら、ジュリはチェーンソーを振り回しながらハシゴに近づく。


 まず、ジュリがハシゴに手を掛けた。長い間放置されていたためか錆びだらけになり、体重を掛けるとどこからか何かが軋む音がした。しかし、ここ以外の道はない。


「兄さん、先に行くわね」


ジュリは黙々と散弾銃を発砲する兄の背に声を掛けると、背にチェーンソーを背負い、ハシゴに足を掛ける。


「ああ。すぐに行く!」


 ジョンはジュリが少し先に登ったのを見ると、足下に散弾銃を乱射する。そして、手早く散弾銃を背負うと、ハシゴに手を掛けて昇り始める。

ジョンは素早くハシゴを8mは昇るが、足下に押し寄せたムカデたちは、ハシゴを伝ってジョンの足下まで迫った。


「ジュリ! 早く上に行け!」


 ジョンはジュリにそう叫ぶと、脚をハシゴに掛けて逆さ吊りになる。ジョンの目の先に、ムカデが大挙して迫った。ジョンは逆さ吊りの状態で、背の散弾銃を抜くとムカデに向けて乱射した。

重い音が、遊園地の軽快な音楽に混じって響く。ジョンの銃が火を噴く度に、先頭を昇るムカデの一団が、まとめて吹き飛び、地に落ちる。


「こいつはオマケだ!」


 ジョンは胸に入れた火炎瓶を取ると、そのまま垂直に落とした。火炎瓶が地面に落ちる前に、ジョンは手に持った散弾銃で瓶を射貫く。

ガソリンと燃焼剤、ガラス片が雨のように、ムカデたちに降り注いだ。


「俺からの贈り物だ! たっぷり味わえ!」


ジョンの散弾銃から、一発の銃声が響く。弾丸はムカデたちへ、そしてハシゴに当たって火花が散る。瞬間、その火花に引火する。ムカデたちは火に焼かれ、悶え、地面に落ちていく。

また、地面にいたムカデたちにも、上から落ちてきたムカデがぶつかり、延焼する。

ジョンはそこまで見届けると、逆さ吊りを止めて、上へと昇り始めた。

 

 ジョンが30mはあるハシゴを昇りきり、ジェットコースターのレールまでたどり着いたときに、先にレールの上まで上がっていたジュリが手を差し出した。


「流石ね」


「当然だろ?」


ジョンはその手をしっかりと掴み、引き上げてもらおうとしたのだが、突然、レールが振動し始める。


「まさか」


ジュリはその振動元を探るべく、当たりを見渡したが答えはすぐに現れた。その振動元である塗装は剥げ、錆の浮いた赤いジェットコースターがジュリたちに近づいてくるのが見える。


そして、チェーンソーを持った女が、ジェットコースターに立ったままで乗っている姿も見えたのであった。

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