第6章-3 異世界より
動画の再生は終わり、ノートパソコンの画面は真っ暗になる。しばしの間、3人は無言になった。
「このチェーンソーを持った女、私に顔がそっくりね」
ジュリは暗くなった画面を戻して、ちょうどチェーンソー女が大きく写ったところで止める。
「そうなんだよ。こりゃあ一体どうなってんだ? しかも、こいつは壁から急に現れやがった」
「さあ? 分からないわ」
「さあ?って、お前」
「分からない物は分からないわ。ただ、この廃遊園地、ミラーハウスはこの前行ったわね」
ジュリは動画を最初の方に戻して、ミラーハウスを指さす。ジョンも口にお菓子を頬張りながら頷いた。
「この場所はたしか長野県の廃遊園地だったか? 昔行ったときには普通の遊園地だったが」
「このミラーハウスにも入ったことはあるの?」
「ああ。 と言っても、行ったのはガキの頃だから40年ぐらい前になるがな」
「このミラーハウスについてのことで、何か情報はある?」
「いや、行ったときは普通のアトラクションだったな。それにこの女が現れたのはつい、10日前のことだしな」
清水はまぶたを押さえて、少し背伸びをする。
「まあ、俺はこのお前によく似たチェーンソー女を片してくれれば、それでいい」
清水はお茶請けのお菓子を口に運びながら、ジュリとジョンの2人に視線を向けた。
「とにかく、その女が出たところまで行くか」
ジョンはお菓子の包み紙を丸めると、ソファーから立ち上がる。
「そうね。私が犯人みたいに思われるのも嫌だし」
ジョンは応接室の扉に手を掛けると、そのまま退出する。その後ろにジュリも続く。その2人の背に向けて、清水は無言で手を振っていた。
――2人はその日の夜に、廃遊園地を訪れていた。2人とも胸に着けたライトをつけると、暗闇を二筋の光が切り裂いた。
ジュリは大型チェーンソーの燃料を確認しながら、隣に居る兄のジョンに話しかける。
「それにしても、自分にそっくりな怪異を切る日が来るなんて思わなかったわ」
「日頃の行いが悪いからじゃないか?」
ジョンはケラケラと笑い声を上げる。ジュリは不機嫌な様子でチェーンソーのエンジンを吹かした。
「まあ、そんなに怒るなって」
ジョンは妹の不機嫌な様子に、さらに大きな声で笑うと、遊園地の入り口に手を掛けたのであった。