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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
長いトンネル
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第5章-7 長いトンネル

ジュリはチェーンソーの刃を振り回し、ブルーシートを大きく引き裂いていく。

ブルーシートは大きな破片になり、車の後方に飛ばされていく。そして、それは”黒ナメクジ女”にぶつかり、張り付く。

黒ナメクジ女は身をよじり、ブルーシートから逃れようとするが、風圧と自身の粘液により剥がれなかった。


 ジュリはチェーンソーを吹かすと、チェーンソーの刃をその異形の腹部に突き刺した。腹部に刺したまま、刃を回転させる。

腹部から粘液が飛び散り、異形は身をくねらす。荷台に飛び散った粘液は、金属部を黒く腐食させたが、ブルーシートはプラスチックだったからなのか、粘液がついても腐食は余り進まなかった。


「まだよ」


ジュリはチェーンソーをスイッチを切らずに、後ろに飛び退く。エンジンを切られていないチェーンソーは、その刃を回転させ続ける。異形の腹部に刺さったままで。


 ジュリは荷台に積んであったチェーンソーを拾い上げ、エンジンを入れると次は頭部にそれを振り下ろす。ブルーシートが頭部とともに真っ二つに裂け、裂け目から”黒ナメクジ女”の光のない目がジュリを見つめる。

ジュリはそんな目に構わず、今度は頭部で先ほどと同様にチェーンソーの刃を回転させる。頭部からは黒い粘液と赤茶けた破片が飛び散り、黒ナメクジ女の頭部が大きくへこむ。同時にその頭部から、牛のような、低いいななきが、トンネルを大きくこだまする。


 ジュリはそのまま、異形をチェーンソーの刃で削り取る。異形から飛び散る黒い粘液に、白い小片が混ざり始める。

ジュリのドレスグローブにも、粘液が飛び散ったが、ジュリは意に介さずに削り続けた。


 ”黒ナメクジ女”が半分ほどになったとき、突然トンネルの中を強風が吹いた。そのとき、”黒ナメクジ女”に張り付いていたブルーシートが、強風の力と異形がかなり小さくなっていたためか剥がれ落ちる。

その瞬間、”黒ナメクジ女”は素早くジュリの右腕に、その黒い手を伸ばした。


 「っ……」


ジュリの右腕に黒い手が絡みつく。チェーンソーを振ろうにも、その刃は黒ナメクジ女の頭部にめり込んで離れない。黒ナメクジ女はそのことが分かっているのか、喉を押しつぶしたような声で低く笑っていた。


「ジュリ! ……おい、ボウズ! ハンドルを握ってろ!」


ジョンはジュリを援護するべく、胸からマグナムを抜くと黒ナメクジ女に照準を向けるが、その銃が火を噴くことはなかった。


「クソッ!」


ジュリと黒ナメクジ女と射線が被り、発砲することが出来なかったのだ。


 黒ナメクジ女は右腕に絡みついたまま、ジュリの顔にその黒い手を伸ばす。

その手が、ジュリの顔に触れようとした瞬間、軽トラが左右に大きく揺れた。


 その衝撃で、身を乗り出していたジョンは、窓から落ちそうになる。


「うおっ!」


ジョンはハンドルに振り返ると、そこには脂汗を流しながらも、何かの覚悟を決めた雅司が、ハンドルを左右に大きく切っている姿が見えた。


「お前、何やってんだ!」


ジョンは怒号に似た声を雅司にぶつける。雅司は、脂汗で濡れたシャツを震わせながら答える。


「……じゅ、ジュリさんを、助けたかったんです……」


ジョンはその雅司の顔を見て、言葉を止める。その顔は真剣にジュリのことを思っての、彼なりの勇気を振り絞った行動だと、ジョンは理解できたからであった。

ジョンは再度荷台に振り返ると、そこには両手とも素手になったジュリが、異形の頭部を、激しく燃えるチェーンソーでたたき落としているところであった。


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