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「うおっ!???」
哲也は掛けた夏掛けを蹴飛ばしながら跳ね起きる。六畳一間の真ん中で、哲也の荒い息づかいの他には18度設定でガンガンと冷風を送り込むクーラーの送風音しか響いてなかった。
哲也は汗だくになったパジャマを脱ぎながら、冷蔵庫へと歩く。そして冷蔵庫からコーラを取り出すと直接口をつけて飲み始める。そして1.5リットルの中身を1/4程度飲み干すと、すこしだけ落ち着きを取り戻す。
「また、あの夢だ。くそっ、あの現場に行ってからだ」
哲也は2週間ほど前の事件を思い出す。
真っ昼間のとある地下鉄のベンチに突如として腐乱死体が”出現”したのだ。まるで電車待ちをしている格好で発見された腐乱死体は、粘液状に溶けた肉片をベンチの下に積もらせながら蛆と蠅がご馳走と言わんばかりに周囲を踊り狂っていた。その事件の鑑識として哲也は捜査に参加していたのだった。
(……現場の監視カメラには本当にいきなり現れたんだよな)
哲也は不可解な点を思い出す。発見された死体を写していた監視カメラを確認したところ、腐乱死体が現れると同時に近くを通りかかった駅の利用客がすぐに気づいて大パニックとなる様子が映し出されていた。
誰かが置いてもいないし、そもそもあのような臭気の物を持ち運んでいたら誰かが途中で気がついたはず。不可解なことばかり。腐乱死体が持っていた財布から免許証が発見され、その死体が駅近くに住む男性会社員であったこと、財布と同時に見つかった定期から見てほぼ毎日この地下鉄を利用していたことが分かった程度であった。男性が勤務していた会社に確認したところ、数日前から連絡がついていなかったことも判明した。
さらに不可解なのが、男性の死因が餓死であることであった。
腐乱していた死体を解剖したところ胃の中は空っぽであり、また男性が最後に目撃されたときには100キロを越す巨漢であったにも関わらず死体の重量はその半分以下であった。腐乱死体を解剖した法務医の飯田曰く『足や手先なんかには転んだような跡はあるけど、他には特にないしなぁ』と頭を掻いていた。
(……まさか、な)
哲也は嫌な予感で震える。
”もしあの腐乱した会社員も自分と同じ夢を見ていたのでは?”、もしそうなら自分はどうなるのか? そんな考えを押し戻すように再度コーラを口に運ぶ。そして再度眠りにつかないようにカフェイン錠を取り出すと、コーラで胃へと送り込む。
(一応、清水警部補に相談してみるか。笑われて終わりかもしれないけど)
カフェインで冴えた頭で考え込むと、哲也は部屋の明かりをつけてゲーム機の電源をつけるのであった。




