22-14
「まったく! 退屈させてくれねぇな」
ジョンは目の前の黒いガス腕を相手にしながら、背後に迫る屍と化した団地の住民たちを見やる。
『どこから?』 『何故?』 『このタイミングで?』それらの疑問は頭の中に降って湧くが、そのことについて思考を回す余裕など一切ない。どちらにしても妹と比べて元からそこまで頭が回る方ではないのだ。今は無心で弾丸を吐き出し、弾を込め、そしてまた吐き出す。硝煙の臭いが辺りに立ち込め、銃身から吐き出された煙で辺りは少しだけ霞がかる。
「おい、ジュリ! そっちは頼むぞ!」
「……人のことをクッション代わりに使っておいて、こき使うわね。ほら、そこ。どいて」
ジュリは目の前で尻餅をついてガタガタと震えてすがりつく須藤を横にどかすと、チェーンソーのエンジンを吹かすべくスターターグリップを握ろうとするが、そこで自分の薬指が曲がらないことに気がつく。先ほど壁に押しつぶされた衝撃を無意識に手で庇ったためか、ジュリの左薬指は明後日の方向を向いていた。
ジュリは一瞬眉をひそめたが口端を噛むと、チェーン-ソーから手を離す。チェーンソーは地面へと落下していき、腐れた住民たちは階下の7段あるうちの4段目に脚を乗せたところであった。
(本当、最悪……!)
ジュリは曲がった左薬指を右手で握り込むと、強引に元の方向へと戻した。ゴキリと身体の内部から嫌な音が響き渡る。
そしてチェーンソーが地面へと落ちる瞬間、ジュリは右手でチェーンソーを支えて左手でスターターグリップを引くとエンジンが吼え始める。
「まったく、本当に碌でもない場所」
ジュリは7人居る屍と化した住民たちへ飛びかかる。
まずは一番手前に居る腐った動く屍の頭部を真横に薙ぎ払う。鼻の辺りから真一文字に切断された屍の頭部はずるりと地面に落ちて階段を転げ落ちていく。
「1!」
切断した屍の身体に思い切り蹴り上げる。
糸の切れた人形のようになった屍は他の屍と化した住民たちを巻き込んで階段を転げ落ちる。
「2! 3!」
地面へと倒れたスーツの屍の頭を階段から跳んで踏みつぶすと同時に、もう1体の血塗れの屍の肩から腰までを袈裟切りにする。
そして屍から刃を引き抜くと同時に、血塗れの屍の首に突き刺さっていた居た出刃包丁を引き抜きながら肩でタックルをする。
「4!」
袈裟切りにした屍をピンボールのように他の屍にぶつけて体勢を崩させる。同時に一番後ろに居るぶくぶくにふくれた屍へと狙いを定める。
出刃包丁を真っ直ぐ投げ、目の辺りに深々と突き刺さったぶくぶくにふくれた屍は地面へと倒れて動かなくなる。
「5! 6!」
狭い廊下に縦に並んだ2匹の屍の腹部を串のようにチェーンソーの刃でつなぎ止める。
そして一気にエンジンを吹かすと、腹部から頭部まで一気に刃を持ち上げる。次の瞬間には縦に真っ二つとなった屍が鮮血を噴き出しながら2つに割れる。
「7!」
ジュリはトドメと言わんばかりに最後に残った屍の首へと刃を振り抜いた。
ごろりと屍の首が地面へと落下する。襲われてからものの数十秒。動く屍どもは、文字通りに1匹残らず屍と化したのであった。




