22-10
須藤はぽつりぽつりと話し始める。
死体を2人がかりで担いでエレベーターで移動していたら、いきなり地震のように揺れたこと。怪我をしながらもなんとか開いたエレベーターの扉から外に飛び出したこと。そこはさきほどまで居た団地によく似ていたが別の世界だったこと。
「……じ、自分と成瀨さんはエレベーターが壊れたんだと思ったんで、外に出たんです。携帯も圏外で、こんな状況で。『僕が少し先を見てみます』って廊下に出たら後ろから叫び声が……」
「……エレベーターの方から叫び声が?」
「後ろに振り返ったら、成瀨さんが。成瀨さんが」
その光景を思い出したのか、須藤は言葉を途切らせながら口端を震わせる。
「……んで、何を見たんだ?」
「……真っ黒い腕」
「さっきのガスみたいな?」
「……っ」
ぶんぶんと須藤は首を横に振る。
その様子にジュリとジョンは顔を見合わせる。ジョンはガタガタと震えるばかりになった須藤の肩に拳を入れる。
「時間がねぇんだ。早く何があったかぐらいは答えろよ」
「……真っ黒い腕が。腕が」
「それはさっきも聞いたわ……」
「……腐ってたんだ」
「?」
「あの……心中した。あの、死体が。死体袋から、腕が」
「死体が動いたのか」
そこまで聞いてジョンははと閃く。
エレベーターで見つかった死体袋から見つかったのは”成瀨”であり、心中で死んで腐っていた母親の死体はどこにも見つからなかったのだ。さらに、この須藤の狼狽しきった口ぶり。そこまで来れば何が起こったかなど容易に想像できた。
「それでアンタは相棒を見捨てて逃げ出して、あのガスの奴らに襲われて、この場所で震えていたってワケだ。それで、その母親の死体は?」
「分からない……」
「はぁ……」
そこまで聞いてジュリはため息を吐いて、チェーンソーを背負い治すと立ち上がる。
ジョンも有益な情報がないと分かると、残念そうに目を細める。
「……アンタ、何か気がついたことなかったか?」
ぶんぶんと須藤は横に顔を振る。
そこまで聞いてジョンも諦めたようにため息を吐くと、須藤に質問を投げかける。
「それでこれからアンタはどうする? ここに隠れてるか?」
「い、いやだっ! 自分も、自分も連れて行ってくれ! こ、こんな所になっていたくないっ!」
「命の保証はないけど、良いのか?」
今度は縦に頭を振る。
ジョンは内心舌打ちをしながらも、須藤の腕を持って無理矢理立たせる。
「俺たちの捜索の邪魔をしない、俺たちに助けを求めない、ヤバくなったら自分1人だけでも逃げること。それが付いてくる条件だ。良いな?」
ジョンは子供に言い聞かすようにゆっくりと須藤に向かって話しかける。
そして須藤が落ち着くのを待ってから部屋を後にするのであった。




