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22-8

そこにはうつぶせで倒れた警官の姿があった。制服は破れ、真っ赤なに染まった皮膚が露出している。

身体の至る所は深く刻まれており、鋭利な刃物か何かで斬られたかのような痕が背中を中心に全身へと広がっていた。



「……おい、生きてるか?」



 ジョンは銃先でその警官の頭を小突く。

小突かれた衝撃で、警官は意識を取り戻したのか小さくうめき声を上げる。そしてその警官は顔を上げると、垢で汚れ髭が数センチ伸びて不衛生な顔に、ジュリとジョンを見てゆっくりと眼に涙が溜まっていく。ぽろぽろと大粒の涙が零れ、そして鼻水が垂れることすら気にせずに2人をじっと見る。



「あ、あんたら……奏矢兄妹だよな!? そうだよなっ!?」



 警官はすがるように抱きつこうとするのを、ジョンは銃口を突きつけて制止する。

警官は両手をバンザイさせながら、口を真一文字に結んで声を殺して泣く。



「……なんだ、あんたら。俺を助けにきてくれたわけじゃないのか? おいっ、答えてくれ!?」



「落ち着きなさい。貴方、もしかして行方不明になっていた警察の人? 確か、須藤さん?だっけ。一体ここで何があったの?」



「ああ、俺が須藤だ! 助けてくれ! 早く逃げないとあいつらが『コンコン』」



 コンコン。



 鉄製の玄関扉が拳でノックした音が部屋に響く。



コンコンコンコン。



「「!」」


 

 ジュリとジョンは同時に身構える。位置は先ほどと入れ替わり、ジュリが扉の前に立ちジョンはその後ろで散弾銃M877 ”マスターキー”を構える。

一方で須藤はその音を聞いてがたがたと身を震わせて部屋の奥の壁へと叫びながら突進し、まるで虫かごに入れられた昆虫のように壁に向かって這いつくばる。



コンコンコンコン!コンコンコンコン!




コココンコンコンココン!コンココンコンコココン!コココココココココ!




 もはやノックではなく、殴打。

絶え間ない殴打の音が部屋の中へと響き渡る。ジュリはいつでもチェーンソーを起動できるようにスターターグリップを握り込む。




コココココココココココココココココココココココココココココココ! ……コン。



 


 殴打が止む。

部屋の中には静寂が戻るが、扉の前からの気配は消えてなどいなかった。カビ臭くじっとりと蒸れた空気の中、緊張感が張り詰めていく。ジュリは浅く小さく、そして早く息を吸い込む。そしてその緊張の均衡が音もなく開いた扉によって破られる。



「……兄さんっ!」



「分かってる!」



 僅か数センチの扉の隙間、そこから真っ黒な”ガス”のようなものが部屋へと入り込んでくる。そのガスは人の二の腕から先のような形を取り、それが何本も、何本も密集した木の枝のように室内へと()()()()()()

ジュリがチェーンソーのスターターグリップを一気に引く。チェーンソーのエンジンは唸り、銀色の刃が回転し始める。そしてその高速回転する刃を、扉の隙間から溢れる腕に向かって振り下ろす。ガスの腕は質量を持ったように切られた部位から根元を残して地面へと落下し、消える。



「っっ!」



 1本のガス腕がジュリの腕を掴む。見た目はガス状であるのに、触れられた箇所にはしっかりと人の手の感触が伝わってくる。掴まれた箇所からその”握力から”血が噴き出し、骨が悲鳴を上げる。

ジュリは咄嗟にチェーンソーを自分の方へと振り抜き、その腕を切断する。そしてイラついた様に扉の隙間へチェーンソーの刃を突っ込む。それと同時にジョンは背中のリュックサックから手榴弾を引き抜くと、その扉の隙間から外へと投げ入れる。



「ジュリ、扉を閉めろっ!」



 声を掛けれたと同時にジュリはチェーンソーを隙間から引き抜いて扉を思い切り閉める。

そして部屋の奥へと一気に駆ける。扉を閉めてから一呼吸を置いて、辺りに爆発音が鳴り響いたのだった。

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