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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
長いトンネル
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第5章-1 長いトンネル

これまでの主要な登場人物

奏矢そうやジュリ

大型チェーンソーを振り回し、怪異を狩り続ける。一家で怪異狩りの依頼を請け負っているが、休みの日が潰されることを非常に嫌がる。

都内の理系大学に通っており、専攻は応用生物学科。学年は2年で、20歳。髪型はショートで黒髪。碧眼であり、膝下ぐらいの長さのスカートを(怪異狩りのときも)好んで着用する。体型は本人曰くスレンダー。色白であり、夏よりも冬の方が好き。

好きな映画のジャンルはアクション、サスペンス。



奏矢そうやジョン

奏矢そうやジュリの兄で、怪異狩りのときには銃火器を好んで使用する。依頼の時には、妹とともに向かうことが多い。身長178センチで体重は89キロ。髪型はツーブロックで、妹とは違い黒目、黒髪である。怪異狩りのときには、軍用の分厚いジャケットを着込む。

現在年齢は25歳で、日々修行と食い扶持を稼ぐために家業に邁進している。

元が地黒のため、妹のジュリとは違い小麦色の肌に落ち着いている。

季節では春が一番好き。

好きな映画のジャンルはコメディ、ヒューマンドラマ。

 闇の中、ぼんやりと口を開けるトンネルの入り口、その横に止まるワインレッドのスポーツオープンカーに男女2人。ここは埼玉県の山深くにある、高山トンネル。辺りは整備されているが、暗く湿気を伴った空気が立ち込めていた。

運転席の男は咥えたタバコをもみ消すと、星が見えない空に向かって煙を吐き出す。


「今、このトンネルを何往復したんだっけ?」


運転席の男、ジョンは遠くを見ながら、隣に居る妹に声を掛ける。


「10回からは数えていないわ」


助手席に座る女、ジュリは気怠そうに答える。

ジュリとジョンの兄妹2人は、警察からの依頼によって真夜中のトンネルへと怪異退治に訪れたのであった。


ジュリは小さなあくびをすると、自身の手元にある鞄を漁り始める。

少ししてジュリは鞄から目当ての資料を探し出す。その資料には今回の依頼内容が記載されていた。


 ――依頼内容

・埼玉県の高山トンネルにて、1ヶ月の間に6件の不審死及び事故あり。被害者数は計13人。この事件の調査及び怪異の殲滅。



・事件内容

1.被害者の運転手はトンネル出口の崖から落ちて、車ごと炎上。同乗者は車内からは発見されず、トンネル内に設置してある換気扇の突起部に、のど笛を突き刺されて風に揺られていた。

2.被害者の体表に黒い粘液が付着。粘液が付着したためか、皮膚はただれ、皮膚の大半が溶解していた。

3.司法解剖の結果、被害者の死因は全て、過度な痛みによる臓器不全によるもの。



・黒い粘液の科学的分析

内容を解明できず。実験の結果、タンパク質を特に分解した。またタンパク質だけではなく、金属やコンクリートなどの無機物にも分解作用が働いた。



・監視映像

3件目の事件以降、警察は監視カメラをトンネル内部全体を見渡せるように設置。しかし、4件目の事件時に監視カメラは破損、映像データは砂嵐が酷く判別不可。5件目、6件目も同様。



・映像ファイル

生存者と救援隊のやりとりを記録した映像ファイルあり。5件目の被害者は発見時生きていたが、搬送先の病院で死亡が確認された。



 ジュリは同封されていたSDカードを取り出すと、ポータブルビデオレコーダーのスロットにそれを押し込む。

慣れた手つきで端末を操作すると、読み込みの間があった後、男2人のやりとりが再生された。



『おい!こっちに来てくれ!この車の運転手は生きてるぞ!』


救援隊の男が仲間に向かって叫ぶ。


『ああ……ああ……』


呻く男の低い声。荒い息だけが明瞭に聞こえる。その男は黒い粘液に覆われていた。


『頑張れ!今病院に連れて行ってやるからな!』


『あいつが……黒い……』


『もう少しで、その壊れたドアが開くからな! 死ぬな!』


数分、金属がこすれ合う音が続く。


『黒……い……あいつが……追って……』


呻く声が小さくなっていく。荒い息が、段々と弱々しくなる。


運転席のドアが取り外される。救援隊の男が仲間に指示している声が、雑音とともに聞こえる。


『今出してやるから、頑張れ!』


うめき声は、もう、聞こえない。

救援隊の男は、呻いていた男の腕を掴むと車外へと引きずり下ろした。


『あっあっあ!? 指が、あ、熱い!?』


突然、救援隊の男が喚く。痛みで転がっているのか、空と地面が交互に写り、大きな雑音で何も聞こえなくる。


『あ”~……う”、ぅう』


映し出されたのは、手の平に付く黒い粘液。そして爛れた手の平。


ここで映像は終わっていた。


 

 ジュリは端末の電源を切ると、ジョンの方に向き直る。


「あんまり見ていても気持ちの良いものじゃないわね」


「ああ、そうだな」


ジョンはタバコを咥えると、再び火を点ける。


「今回の怪異はちょっと面倒だな。被害者は無差別なのか、何かを狙っているのか……」


「被害者に共通点がないものね」


ジュリは資料を鞄の中にしまいながら答える。


「しらみつぶしにやるしかないな」


ジョンはそう言うと、再びトンネルへと車を走らせた。


 

 トンネルを往復して23回を数えた頃、ジュリたちは目の前を走る軽自動車に天井から追ってくる黒い怪異の姿を捉えていた。



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