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22-5

「……なんでこうなったのかしら」


ジュリは己の姿を見てぽつりと呟く。紺色の婦人警官の制服、それが今のジュリの格好であった。

ため息を吐きながらジュリはズボンの裾を引っ張る。『似合わない格好』、それがジュリの感想であった。そしてその格好ではチェーンソーを背負えないので、エレベーターに放置された兄のリュックサックの裏へと隠していた。



「……で?」



「……で?って? ……あ、この制服のこと? これ、この前清水のおっさんから借りたんだよ。ほら、こういう格好しておけば楽に動けるときあるだろ」



「……入手先を聞いてはないわ。これからこんな格好をしてどうするのかって聞きたいんだけど」



「そうだなぁ。このままこのエレベーターに乗ってれば何か起こるんじゃねぇかな」



「すごい適当ね……。いつものことだけど」



 

 一階で扉を開けた状態で止めているエレベーターにジョンは脚でつっかえ棒の状態で、中にいるジュリと会話を続ける。

その様子を見て、団地の住民は怪訝そうな顔をして横を通り過ぎていく。2人が乗っているエレベーターは元は『点検中』だったのだが、その点検中のエレベーターに警察官が来ているのは不自然だったからだ。そのうちにこの団地に住む主婦が、好奇の目で2人へと声を掛けてくる。



「あの、すみません。ここ、なにかあったんですか~?」



「あん?」



 小太りで化粧の厚いおばさんがジョンに近づくとなれなれしく話しかけてくる。

ぶっきらぼうに答えようとするジョンに、ジュリが割り込んで代わりにおばさんに向かって答える。



「……ごめんなさい。今、捜査中ですので詳しいことは話せないんです。ここ最近で何か変ったことはありませんでしたか?」



「あら、若いのに大変ねぇ~。最近変ったこと? そうねぇ。501号の息子さんがここ最近行方知れずになっちゃったとか、向かいの棟じゃストーカーがその部屋の女の子を殺しちゃったとか。ああ、あと先週に心中事件があったわねぇ。怖いわ~」



「そうですか。他になにか気になる点はありますか?」



「……う~ん。そうね。ああ、最近になって変な噂があるのよ」



「変な噂?」



「そこのエレベーターって古いでしょ?」



「……? ええ」



「音声案内なんてないのに、案内のアナウンスが流れるときがあるって話。そのせいで407号の田所さん、引っ越ししちゃったらしいわよ。すっごく怯えた眼をして『こんな団地に居られない』だって。すぐに居なくなっちゃった。彼、エレベーターで失神してお漏らししてたらしいわよ」



「ちなみにその山田さんについて教えても教えて頂けませんか?」



「あらっ、こんな話が関係あるのかしら?」



「いえいえ、住民の方のお話がなにに関係しているか分かりませんから」



「そーねっ。その田所のおじさん、酒癖が悪くってね。うちらの間じゃ有名だったんだけどね。まあ、暴れる暴れる。下の階の人からクレームを受けるぐらい、ね。あ、もちろん両隣と上に住んでる人からもね。お酒に酔ってエレベーターで暴れたんじゃないかって、部屋の現状を見に来た不動産屋は言ってたけどね。あたしたちの間じゃ、エレベーターで”何か怖いもの”を見たんじゃないかって。そもそも、そんなエレベーターの噂が始まったのが、ちょうど田所さんが引っ越ししたぐらいから始まったしね。田所さん、部屋で『ここは9階じゃねぇ!!! うるせぇんだよ!!!』とか喚いて……5階のあたしんちにまで叫び声が聞こえてたから、居なくなってくれて嬉しかったけど」



「(ここ9階建てなのに……?)そうですか。他に何か気になる点は?」



「……あっ、そーだ! この前、6階の……」



 おばさんはまるでマシンガンのように喋り続ける。

ジュリは態度には極力出さないようにして、おばさんの話を聞き続ける。それから40分程して満足げにさったおばさんとは対照的にげんなりとした表情のジュリの姿があったのだった。

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