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何度『閉』ボタンを押し、階数ボタンを押し、そして何度上階と下階を行き来しただろうか。
ジュリはジョンの背負った”大荷物のせいで”狭いエレベーターの壁際へと押しやられていた。
「ちょっと、兄さん。狭い……」
顔にはリュックサックの布の痕がつき、背負った紅蓮に炎の刻印がされたチェーンソーが自身の背に潰されて背中にに不快感を与えていた。
ジュリの額にはじっとりと汗が滲む。考えなくとも、狭いエレベーターという密室に何時間も居れば蒸されるのは明白であった。そして大荷物に潰されているという点がさらに不快度指数を上げていく。
「……おかしいな」
「えっ、なに?」
「いや、まあ。突然、人が襲われて居なくなる、なんて話はまあ、良くある話だろ?」
「そうね。それがどうかしたの?」
「そういうときって大概”何かが流れ着いて通り魔的な形”かあるいは”その場所に縁があって現れた”のパターン。前者ならトンネルに居た黒ナメクジ女、後者なら廃遊園地に現れたお前のコピーだな」
「……今回のもその前者の通り魔的なものに当たるんじゃないの?」
「いやいや、それならそれでおかしいんだよ。なんで少なくなっているとは言え、住民に被害が出てないんだ? なんで警察官3人だけが巻き込まれた?」
「……偶然じゃないの? 偶然、怪異が現れたタイミングが警察官の居るタイミングと重なったから、とか?」
「いや、いや。偶然なら俺たちはとっくの昔に怪異に遭遇しているはずだ。偶然じゃない、これは必然なことだったんだと思う」
「あら、じゃあ何か作戦でもあるの?」
「ああ、とっておきの作戦がな。ちょっと車に戻るからエレベーターの前で待っててくれ」
「……? 分かったわ」
1階に着いたエレベーターから2人は降りて、ジョンは車へ、ジュリはエレベーターの前で待機する。
そして暫く待つと、警官の制服を着たジョンが団地の入り口から手を振って現れたのだった。




