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22-3

東京都の多摩にあるとある9階建ての団地前の駐車場に、ワインレッドの派手なスポーツカーが止まっていた。

スポーツカーの助手席の窓がさがり、そこからジュリが顔を出す。



「ここが事件のあった団地ね。 ……見た感じ普通だけど」




 真上から差し込む日の光を手で遮りながら、ジュリは運転席に座るジョンへ話しかける。

ジョンもまたタバコを咥えながら、団地を見上げる。ジョンの目には『古いけれども、その他には特になにも異常性は感じられない』ただの団地に映る。



「ああ、そうだな。住民の数が少しずつ減ってきてるらしいが、それでもここには普通に人が住んでるんだ。一目で分かる異常があれば、もっと大騒ぎになってるだろうしな」



「そうね。さて、”事件現場”のエレベーターまで行きましょうか」




 ジュリはそう言うと車から降りて団地へと入る。

団地の入り口から既に物々しく『使用禁止』と赤いテープで封印されたエレベーターが見えていた。そこに近づいて辺りを窺うが、エレベーターは古いといっただけで特に何かあるわけではなかった。




「うぅん?」



 ジュリは辺りの空気の臭いを嗅ぐがこれと言って不審な臭いはなどない。

人の体臭、どこかの部屋から漂うカレーの臭い、あるいはタバコの臭い。確かに目の前にあるエレベーターの扉の隙間から血の臭いは漏れていたが、それでも不審と言えるほどの情報はなかった。



「おい、ジュリ。何かあったか?」



 後ろから声を掛けられて、ジュリは振り向くと目を見張る。

いつも弾丸やら散弾銃やら手榴弾やら、重装備であるジョンであったが、今ジュリの目の前に居るのはまるで雪山にこれから向かおうかとも思える程大荷物を背負ったジョンの姿であった。ぱんぱんに詰まったリュックサック、そしてヘッドライト付きのヘルメット、腰に巻いたガンベルトには拳銃二丁、胸には大ぶりのサバイバルナイフを備えていた。



「……やけに遅いと思ったら、何、その格好?」




「うん? ああ、この前見た映画でな、”エレベーターの中に閉じ込められた男が異次元で化け物に襲われる”ってやつを見たんだよ」



「……へぇ?」



「いやー、ちょうどその映画を見た後にこの依頼だろ? これは”神様”がその映画と同じような展開になるって言ってると思ってな! 食料やらなんやら詰め込んできたぞ!」



(”神”なんてこの世に居るわけないじゃない)


 

 ジュリはジョンにも聞こえないような小さな声でぽつりと呟く。



「ほら、さっさと行くわよ」



 ジュリは空気を変えるように声を出すと、『立ち入り禁止』テープを勢いよく破るのであった。

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