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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
饗宴と肉欲と
212/229

21-12

濁った水の中でいくつもの双眸が侵入者であるジュリ、ジョン、巌、結衣を見つめる。そして威嚇するように水面が激しく揺れて、水滴が床へと振り注ぐ。

水が飛び散った水槽の前、滑った床にはいくつもの食べカス――割れた爪や骨、肉片らしきものが散乱していた。そして天井には大きな穴が空いており、そこから小さくうなり声にも似たすきま風が吹いていた。



「なんだ、コイツらは?」



 ジョンは手にマグナムを構えながら、水槽を見やる。

中に居た”人魚たち”は興奮しているのか不愉快な甲高い泣き声――黒板を爪で引っ掻いたような不快な泣き声。そして水槽の中から1匹の人魚が飛び出てくる。そしてそれに続くように何匹もの人魚たちが侵入者であるジュリたちに飛びかかってくる。



「はぁ、まったく」



 ジュリはため息を吐きながらチェーンソーのエンジンを吹かす。

そして一番最初に飛び出してきた人魚を縦に両断する。両断された人魚は飛び出した勢いのまま、壁に衝突し三枚下ろしの標本のようになってゆっくりとずり落ちていく。



「仕事が増えて嫌になるわ」



 うんざりとした表情で、チェーンソーを振るうジュリ。足下には3枚に卸された、あるいは頭部がはじけ飛んだ人魚たちが”血の海”で断末魔上げながら息絶える。

床や壁だけではない。人魚たちが泳いでいた水槽もまた、千切れた背びれや腕、髪の毛が張り付いた頭皮の破片が浮かんで真っ赤に染まっていた。そして少しすると、切れかかった電球の断続的な音と荒い4人の呼吸音以外は聞こえなくなる。ジョンは銃を片手に構えながらも血の海で沈む1匹の人魚を観察し始める。




「おい、こいつをみてくれ」



「なぁにかしらん? ……脚?」



「ああ、脚だ。まるでオタマジャクシがカエルになる途中、みたいだ」



「えぇっと、つまり」



 結衣は次にジョンが何を言いたいのか理解する。

つまり、人魚たちはカエルのように脚が生えて来る。つまりは二足歩行するということ、だが上階でサキュバスたちを殲滅したときには破廉恥な妖艶な女型の怪異は居てもそのような”魚もどき”など見当たらなかった。だが、この人魚たちは”(人肉)”を与えられて、見た感じ大切に育てられていた。



「……つまり、サキュバスの幼体が人魚ってことですよね?」



「ピンポーン、大正解。商品はこの”3枚下ろし人魚”で良いか?」



「いえ、いらないです」



 ジョンはぴらぴらと指で摘まんだ人魚を結衣に近づけるが、結衣はしかめっ面をしてそれを拒否する。ジョンは摘まんだ人魚の肉片をつまらなさそうに投げ捨てると、部屋の中を見渡す。窓も扉もない小さな部屋、死と肉塊しか転がっていない室内を見渡すと疲れたようにため息を吐く。



「……で?」



「で?って、なによ。ジョンちゃん」



「これで終わりってことを聞きたいんでしょ? ……そうね、もう”生きてる臭い”もしないし、終わったんじゃないかしら」



「そうそう、俺は終わりかどうか聞きたかったんだよ。街中のビル、一棟を灰にしたら大騒ぎだろう? 流石我が妹、俺の言いたいことを分かってるな」


 

 そう言うとジョンはそそくさと部屋を出て行く。ジュリもまた兄のジョンの後を追ってその狭い地下室を出て行く。

後に残された巌と結衣は顔を見合わせて、おそらく同じように浮かんだ疑問を口にする。



「”生きてる臭い”って」



「どんな臭いなのかしらぁん……?」

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