21-11
薄暗い小部屋。明かりは廊下から差し込む僅かな日の光のみ。
ジュリは手探りで電灯のスイッチを探す。数カ所、胸の高さの辺りを探ると、指先に触れる小さな出っ張り。その出っ張りを押すと部屋内が一気に明るくなる。
「んー、ここからあの嫌な臭いがしているんだけど」
部屋内は六畳ほどの大きさであり、普段は酒の保管庫として使用されているのか壁にはブランデーや日本酒、ワインと言った様々な酒類が所狭しと並べられていた。
室温を一定に保つためか、天井に設置されたエアコンからの風がジュリの髪を揺らす。
「隠し階段でもあるのかしら」
ジュリは棚の酒瓶をいくつか動かして探るが、そこはただの棚。怪しげなスイッチや仕掛けなど見当たらなかった。
そうこう探している内に、一緒に辺りを探していたジョンはあることに気がつく。
「ここの床、なんか変だな。浮いてる感じがする」
「あら、じゃあそこに何か空間があるのかしらねぇん?」
ジョンを手で制止しながら巌は思いきり床を踏みつける。
少しだけくぐもったかのような音が鳴り響き、そこに空間があることを指し示していた。
「めんどくさせぇな。ジュリ、適当に頼めるか?」
「刃が欠けなきゃ良いんだけど」
ジュリはチェーンソーのエンジンを吹かすと床に刃を当てる。
火花が飛び、床が削り取られていく。数十センチほど床を抉ると、そこにはぽっかりとした空間が顔を覗かせた。そしてそこの亀裂に刃を当てながら、あっという間に人が通れる程度の空間が出来上がった。そして真っ暗な階段が、床に出現したのだった。
「あーあ、ちょっと欠けちゃったわ。あまりこういうものに使いたくないのだけど」
ぶつぶつと文句を言いながらもジュリはその階段を一番に降りていく。
階段を一段、また一段と降りる度に強まる悪臭。あまりの臭いに
「すげー長い間放置したミドリガメの水よりも臭いな」
「昔海辺で見つけた水死体より臭いわぁん。服に臭いが付かなければ良いんだけどぉ」
「冗談言ってる場合ですか……」
「また扉?」
階段は十段ほどで終わり、目の前には何の変哲もない扉があるのみであった。
先頭にいたジュリがドアノブを回すと、あっさりと扉は開いた。
「ここは、なに……?」
天井から伸びる1つの裸電球。
薄暗い地下室には大きな水槽が水槽が1つ。水族館で大型の魚類を飼うようなサイズの水槽の中でキラキラと銀色の何かが光を反射していた。
愛くるしい顔立ち、すらりと長く伸びた首筋と鎖骨まで掛かる漆黒の髪、柔らかな胸としなやかな腕。指先についた水かきと艶かしい腰から繋がる銀色の鱗に覆われた魚類の下半身。人間の二の腕ほどの大きさの”人魚”が水槽内を何匹も泳ぎ回っていたのであった。




