21-10
4人は色気のない階段を降りていた。手すりや階段の一部には所々に血肉が飛び散り、日の光を受けて輝いていた。
そう、朝日が昇りつつあった。このビルに突入したのは真夜中過ぎ、だがサキュバスたちを殲滅するのに時間が掛かったのを意味していた。こういった怪異退治に時間をかけ過ぎるのはあまり良い結果を生まないからだ。
「あー、もう夜明けか。 ……少し時間が掛かりすぎたな」
「眩しいわねぇん」
ジョンはタバコを口に咥えながら、窓から差す日の光に目を細める。
遠くからは鳥の鳴き声が聞こえ始めていた。そして新聞配達のバイクの音も小さく夜明けの街に響いていた。
「そうね。まさか、こんなに”怪異”がいるなんて聞いてなかったしね。 ……兄さんは好き放題に銃を乱射するから、余計に騒ぎが大きくなるだろうし」
「新しい”オモチャ”が手に入ったら使いたくなるもんだろ。んー、まあこのマグナムはぼちぼちだったかな」
「……下に”何が”いると思いますか?」
階段の先頭にいた結衣は後ろにそう問いかける。
既に4人は1階手前の踊り場にまで差し掛かっていた。階段の壁に塗られた表示案内には2F/1Fとあり、もう数秒後には1階へと着いてしまう。結衣は確認の意味を込めて3人に問いかける。
「さあ? そもそも上の階で何トンも水なんて使ってる履歴がある時点でおかしな話だけどね」
「……さっきの水音。まさか、怪異がペットを飼ってるなんて可愛いことしないよな? しかも餌は肉だし」
「まあ、なんにしても碌なもんじゃなさそうね。 ……あら?」
1階に着いたジュリは小さく声を漏らす。
なぜなら階段は1階で終わっており、地下に通じてなどいなかったからだ。4人は階段を抜けて狭い廊下へと顔を出す。辺りを見渡すも階段らしきものはない。そのときジュリは薄暗い廊下の奥を指さす。
「あそこ。あそこからあの嫌な臭いがするわ」
ジュリが指さした先。そこには真っ赤に塗られた金属のドアが1つ。
ドアの上には『関係者以外立ち入り禁止』の札のみが掛かっているだけであった。ジュリはその扉に手を掛けるが、当然のように扉が開くことはない。ジュリは数回ドアノブを捻ると諦めたように一歩下がる。そして。
ガツンッ!
ジュリの固いブーツの靴底が金属製の扉へと突き刺さる。
ガツンッ!ガツンッ!ガツンッ!ガツンッ!
何度か扉に蹴りを入れるジュリ。
段々と扉は歪んでいき、仕舞いには扉を支える蝶番が吹き飛んでいく。そして悲鳴にも似た音を立てて扉は倒れる。
「さ、早く行きましょう」
ジュリはその倒れた扉を踏みつけながら奥へと進んでいくのであった。




