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4人は”夢魔”の臭いがする少女を追って路地を駆ける。
だが細い路地に加えて、土地勘のない4人には少女を完全に捉えることはか出来なかった。
「ジュリさん、まだ追えますかっ!?」
「ええ、姿は見失ってもここまで臭いを辿れるならイケるわ」
「あ~ら、本当にその”嗅覚”は羨ましいわねぇん」
「ジュリの嗅覚は訓練された麻薬探知犬よりもすごいからな。んであとどのくらい走ればあの”夢魔”女に追いつくんだ?」
「もうすぐだろうけど、どうかしらね」
4人が走り出して10分も経った頃、とあるビルの前に立っていた。
見た目は普通の商業ビル。ビルにはいくつものネオン看板が並び、いかにも水商売の看板であろうといった雰囲気であった。見たところ、普通に営業しておりまったく人外である怪異が居るようには見えなかった。
「ここから臭いが……あら?」
入り口からギリギリ見える階段の奥。楽しそうな笑い声と音楽が漏れる扉、その扉には「BAR 桜」という看板が掲げられていた。そのBARもとい、スナックから出てくるくたびれたサラリーマンが1人。
そのサラリーマンは中にいるホステスたちとママに手をひらひら手を振りながら、千鳥足で店を出る。
「うぃっ。おい、あんたら、入り口でとまんなや」
サラリーマンはジュリたちを押しのけて通り抜けると、ふらふらと大通りの方に向かって路地から居なくなる。
ただの”遊び”に来たサラリーマン。また他にも通常通りに営業しているのだろう。ビルの中から笑い声や歌声が小さく響いていた。
「それでどうします? 不用意に飛び込めば一般人の方にも被害が」
「……ここの臭い、すごい濃いわ。例えるなら”玄関の靴箱”みたいな物ね」
「とってもわかりやすい例えだな、ジュリ。それで何が言いたいんだ?」
「これだけの臭いは”少しここを通った”だけじゃ残らないってこと。ここに”ずっと住んでいる”とかそういうレベルよ。つまり巣みたいな物ね」
「……巣か。そうか、巣ね。なら俺に良い案があるぞ」
ジョンは胸のポケットからジッポを取り出すと、火を点ける。
そして指で弾いかれたそれは廊下の天井の――火災報知器へと火がついたまま小さく音を立ててぶつかる。同時にビルに鳴り響くけたたましいベルの音。同時に噴き出すスプリンクラー。ビルの中は蜂の”巣”をつついたかのような大騒ぎとなる。
「なっ? 巣は燻すのが一番よ」
「なっ? じゃないわよぉんっ!? あたしの、あたしのメイクがっ! 落ちじゃうじゃないのよー!」
ビルの中から命からがらに叫びながら客や従業員たちがビルの入り口へと殺到する。
ジュリたちは入り口で殺到する人たちを壁にひっついてやり過ごす。少ししてビルから消える人の気配。だがジュリの鼻には”夢魔”の臭いがさらに強く残っている。そして無言で人の気配が消えたビルの階段を上を目指して駆け上がるのだった。




