21-2
灰色のどんよりとした空の下。
大阪にあるこじんまりとしたホテルに4人の男女がこれまた小さな、1人用の丸テーブルを囲んで座っていた。1人の青年が胸からタバコを取りだして口に咥えると、ジッポを探してポケットの中をがさごそと探る。そこに突き出される火の着いたライター。青年はぺこりと頭を下げると、目の前で揺れるライターの火にタバコの先をかざす。煙を曇らせながら口から天井に向かって紫煙を吐き出す。
「火をありがとう。んで、俺らに大阪に来させたのってその”事件”の解決に人手がいるってわけか、巌さん」
「ええ、そうよぉ。ジョンちゃん。あたしたちだけじゃあ、ぶっちゃけあいつらを、”夢魔”を追い切れないのよぉ。何で分からないけどこっちも怪異事件がとぉっても多くなっていてね。近場で手伝ってくれる人、居ないのよぉん」
「先週の”朗読会”で身体はぼろぼろだけどね。”資料”を見せて貰ったけど、被害者は全員生きてるのよね? こんな状態だけど」
ジュリはテーブルに置かれたカップケーキを頬張りながら、空いた手で資料をぴらぴらと動かす。
そこには1枚の写真も添付されており、ジュリはそれに視線を落としながら嫌そうな物を見る。そこには1匹の猿のようなものが映っていた。
「何これ? ゴリラか何か?」
檻の中にいる半裸の毛むくじゃら。
2本足で立ち、檻から逃れようとしているのか両手で鉄格子を掴み歯茎を見せて威嚇していた。不思議なコトにそれが当たり前のようにズボンを履き、銀縁の眼鏡を掛けていたのだ。
「ああ、その人は中島って言う歴とした人間のサラリーマンだわぁん。持ち物から分かったんだけどねぇ、ほら、喋れないから。こんなんじゃあ、ね?」
「他も被害者もみんな同じか? 資料には7人目の被害者って書いてあるが」
「ええ、そうだわぁ~。まったく困った物よねぇ」
巌はぴっちぴちライダースーツ姿で身をくねらせながら答える。
ジュリとジョンはそんな巌の様子にため息を吐く。一方でそれまで黙ってアイスティーを啜っていた結衣が口を開く。
「この被害者の人たちはある程度狭い地域でみんなこの状態で発見されたんです。うちらも大体の場所や大阪府警に協力してもらって動いたんですが、後手後手に回ってしもうて」
「なら、次に出る地域も絞り込めてるってわけね」
「ええ、お二人に”夢魔”を追跡して貰うために、被害者の持ち物を拝借してきました。ジュリさんなら、臭いで追跡できるかと」
「ええ、できるわ。にしても手際が良いこと。 ……じゃあ早速動くのかしら?」
結衣と巌は無言で頷くと同時に席から立ち上がる。
ジュリはカップケーキを横に置いてあったココアで流し込むとイスから立ち上がるのだった。




