第4章-4 水にストーカーされる女
「まあ、こんな話なんですけど、何か分かりますか?」
雅司は目の前でショートケーキをつついているジュリに向けて話す。チョコパフェを食べ終えたジュリは、そのままショートケーキを食べていた。ショートケーキに乗せてあるいちごを脇に寄せると、スポンジと生クリームを少し大きめにフォークで切って頬張っていた。
「つまり、その先輩を助ければ良いの?」
ジュリは脇に寄せたイチゴを、一口で食べきる。
「ええ、そういうことです。何か方法は?」
「方法はない訳じゃないけど、もう時間がないわね」
ショートケーキは、もう半分もない。その切断面は、赤と白と黄色の綺麗なグラデーションを覗かせていた。
「えっ」
「すぐにその取った水を元の場所に戻したら、変わっていたんだろうけど」
「どういうことです?」
雅司は身を乗り出しながらジュリに聞く。ショートケーキはもう4分の1しか残っていない。
「簡単に言えば、その富江っていう人は水そのものじゃなくて、水を通した山の意志に好かれたのよ。言い方を変えれば山の神といったところかしら。そこの水を持ち帰ったことによって、自分から相手に逆マーキングしたようなものよ。それで、水をすぐに元の場所に戻せばなんとかなったんだろうけど……見て」
ジュリが窓を指さすと、窓ガラスを叩きつける激しい雨が見えた。
「そういえば、今日はゲリラ豪雨に注意って……」
ジュリはショートケーキを食べ終えて、ミルクティーをすすっている。
「それで、そのペットボトルっていうの「僕、先輩を見に行ってきます!」」
ジュリの説明を遮るように雅司は声を上げると、伝票を持って店から消えていった。
「まだ話は終わってないのに」
ジュリは残りのミルクティーを飲み干すと、カフェを後にした。
店から出た雅司は富江に連絡を入れるが、誰も出なかった。
ずぶ濡れになりながらも、富江の家に着いた雅司が見た物は、無機質な表札と、人の気配を感じない紺のドアだけであった。
その日、雅司は富江に会うことが出来ず、次に急いで向かった大学でも富江を見ることはなかった。




