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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
舞宇道村(ぶうどうむら)
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第1章-2 舞宇道村(ぶうどうむら)

智也は両断された女の骸を見ながら、少し前に自身に起きたことを思い出していた。




――浦河智也(うらかわ ともや)とリオの夫妻は1週間ほど前に、人口が100人にも満たない舞宇道村(ぶうどうむら)に都心から越してきた。2人は都心での仕事を辞め、夫婦で農業を始めようと計画していたのだった。

 引っ越した初日、夫婦で引っ越しの挨拶のために近所を回る。近所といっても、過疎地かつ限界集落の舞宇道村のため、家と家とがかなり離れていた。


 まずは自分の家から1番近い家に向かう。


「近所に住んでいる人はどんな人だろう」


「良い人だったら良いねぇ」


夫婦で他愛もない会話をしながら、歩いて向かうのであった。


 隣の家は古民家といった佇まいを醸し出していた。


「すごい歴史のあるお家みたいね……」


「ああ、そうだな……インターフォンはどこだ?」


 智也は早速挨拶するためにインターフォンを探すが、古い家だったためか見当たらない。


「インターフォンを付けていないのか...誰か居るかな」

 

 隣りの家はインターフォンがなかったため、智也は玄関先から大声を出す。


「すみませーん!」


  だが、返事が無かったので、夫婦は顔を見合わせる。

少しして、庭の方から家人だと思われる老女がするりと現れた。手に生きた鶏を持って。


「……」


 老女は無言で2人をなめ回すように見る。

風に乗って、わずかに腐臭が漂うが、どこからか智也には分からなかった。


「は、初めまして。隣に越してきた浦河と言います」


「……」


「よ、よろしくお願いします」


 智也は老女に菓子折を渡しながら、挨拶をする。だが、老女は無表情で2人を見るだけであった。

菓子折を受け取った老女は一言も発さず、そのまま家の中に消えた。家の中に消える直前、小枝を折るような音と、鶏の断末魔が聞こえた。


 あまりの老女の対応に呆然となる2人。


「あの婆さん。なんだアレ……」


「ちょっと酷いわね……」


「まあ、ここの家だけちょっと特殊なのかもしれないな……」


「それにしても、あのおばあさん、顔色が悪かったわねぇ。大丈夫かしら?」


 2人は車に乗り込むと、引っ越しの挨拶回りに戻る。しかし、挨拶回りをした全軒で、同じような対応に遭う。皆一様に無言で、顔色が土気色をしていたことは共通していた。


 全軒を回り終えた頃には、夕闇が差し迫っていた。自宅に戻った夫妻は、口々に文句を言うのであった。


「なんだ? この村は?」


「変なところに越して来ちゃったわね……」


「何が『ここの住民はみんな友好的で住みやすい。』だ。村長にあったら文句を言ってやる」


「そうよねぇ……その村長さんの言葉でここに決めたのに。」


「まあ、確かに胡散臭かったけど、ここまで酷いとは思わなかったよ。何が『一生暮らしてもらえるような村づくりをしている』だ。ここの村長の言葉は嘘ばかりだな!」


 文句を言いながら自宅に戻った夫妻は、夕飯の支度に掛かる。キッチンにエプロンを着けて、リオは夫である、智也に視線を送る。


「今夜の晩ご飯はどうする?」


「とりあえず、麻婆豆腐でも作ろうかしら」


「いいね!俺が手伝うことは何かあるかい?」


「大丈夫よ。あなたは荷ほどきをお願い」


「わかった。何かあったらすぐに呼んでね」


 智也はキッチンから出ると、荷ほどきに取りかかった。30分程して、智也は妻から声を掛けられる。

智也は軍手を外して、額に垂れる汗を手で拭う。


「ねぇ、智也。悪いんだけどお買い物を頼める?」


「ああ、いいよ! 何を買ってくれば良いの?」


「片栗粉が切れちゃったの。お願いできる?」


「ああ、わかった。他に何か買ってくるかい?」


「じゃあ、智也の好きなお酒を買ってきてくれる?引っ越しの乾杯をしたいの」


「すぐに行って帰ってくるよ!」


 意気揚々と家を出た智也は、車に乗り込んだ。一番近いスーパーは村外にあり、車で30分は掛かる。

辺りはすっかり暗くなり、近くには電灯がないため周囲は暗闇に包まれていた。


「~♪ ~♪ ん?」


 鼻歌交じりに車のエンジンを掛けた智也は、家の前に人が集まっているのに気がついた。


「なんだ……? ウチになんか用でもあるのか?」


 車のヘッドライトを付けた智也は、目の前に立っている人たちの異様に気がつく。


「な、なんだ……あいつら……」


1人は顔の肉が削げ、骨が露出していた。別の1人は両目がなく、鼻もない。また、別の1人はシャツの間から大腸がこぼれ落ちていた。

彼らの共通点は1つ。


「ば、化け物...」


 1人として、生きている人間には見えなかったのだ。彼らの見た目から言うと、まさしくゾンビの群衆であった。


 彼らの1人がボンネットに乗ってくる。そいつは舌が異様に長く、頭の一部が大きくへこんでいた。

「ひぃぃっ」智也は情けない悲鳴を上げる。また別の1人は車のドアを開けようと、力任せに叩いてくる。

 

 智也は恐怖に駆られて、数人を轢きながら車を発進させる。後ろから、自宅の玄関のドアを大きく叩く音と、妻の悲鳴聞こえた。しかし智也はその音を無視して逃げ出したのであった。

 その後、智也は警察に駆け込むが、警察の人間は最初は信じなかった。逆に狂乱して警察官に殴りかかった彼を、拘留してしまったのだ。少しして、こういった怪異に明るい人間に情報が伝わり、そこから、怪異退治で有名な奏矢兄妹に依頼が来たというのがことの顛末である。





――バラバラになった死体の上で、奏矢 ジュリが愛用のチェーンソーにこびりついた汚液を拭っているときに携帯が鳴る。

携帯には、彼女の兄の名前が表示されていた。


「もしもし、兄さん?」


「ああ、そっちの首尾はどうだ?」


「絶望的ね。奥さんは駄目そう」


 ちらりと後ろを振り返る。部屋の中心には大量の血痕が、乾いてこびりついている。智也は猟銃を置き、それをじっと見ていた。


「そっちはどう?」


「こっちは順調だ。敵は『死体の踊り子(ネクロマンサー)』の一種だろう」


「あら、珍しいわね?」


「日本じゃ、基本的に火葬だからな。まあ、材料不足が分かっているのに、やる馬鹿はいない。ところで村長を探しているんだが、恐らく公民館に居るはずだ」


「どうして?」


「今、村長の家で怪しい本を見つけた。それによると、術を行うためには広いスペースが必要らしい。そんな場所はこの村じゃ、あそこしかない」


「分かったわ。じゃあ、公民館で落ち合いましょう」


「ああ」


 ジュリは携帯電話を切ると、智也の方を向く。


「アナタはどうする?」


「お、俺も行きます……」


 智也は床にこびりついた血を見ながら、声を震わした。


「そう。あまりおすすめはしないけど」


「いえ……妻の仇を俺の手で取りたいのです。」


「……じゃあ、急いで公民館に向かいましょう」


 2人は家から出て車に乗り込むと、公民館へと車を走らせたのであった。

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