ex3-6
午後の講義をすっぽかし、隆史は徹の知り合いの居るという『寺』に2人して向かっていた。
東京の大学を出てバスに乗り、電車を乗り継いで2時間と少し。日がやや陰り始めた頃に、隆史と徹は辺りに自然が広がる――悪く言えば田舎の、『上野沼神社』に居た。
「いや、ここ寺じゃなくて神社じゃん」
「あ? まあ、どっちでも変らないっしょ」
『神社とお寺の差も分からない』徹はあっけらかんと笑う。数時間もかけてきたこの”神社”。
日がやや傾き始め、オレンジ色が混ざり始めていた。隆史はじっくりと神社の方を見やる。鬱蒼とした木々の中にそれほど大きくはない神社。しかもかなりの年数が経過しているのか、屋根の端の一部は欠けて落ちてしまっていた。
(ぼろいなぁ)
せっかく徹が連れてきて来てくれたにもかかわらず、隆史は萎えていた。
隆史自身もまた、あまりオカルトや怪異などは信じていなかったのだが、この前の謎の音――特に階段で聞いた声に内心”そういったものもあるのではないか?”とは考えてはいたの、だが。
(せっかくお祓いをするならもっと綺麗で有名なところの方が良かったな)
帰りのことも考えると気が重くなる。
そんな隆史とは対照的にノリノリで神社の中へと入る徹。そして徹は一直線に廃れた社務所――年末年始だけはお守りや破魔矢などを売っているであろう本殿に併設された小さな建物のドアを何度か強く叩く。
「加茂部さーん! 俺っす、神木っす!」
何度も大きな声で徹は人の名前を叫び、そして何度も何度も社務所のドアを手の平で叩く。
数分が経った頃、本殿の近くから頭を丸めた男が徹に向かって息を切らしながら走ってくる。
「おい! 宮司様の邪魔になるだろうがっ! 氏子の方が見えてるんだぞ!」
「あっ、加茂部さん、こんちわっす! 実はお願いがありまして」
「お前なぁ、”元”ご近所さんでも迷惑ってものを考えろよ! ……ん? お願い? 珍しいな、いつもは冷やかしに来るだけだろう?」
「俺の友達のお祓いをやって欲しいんすよ。ほら、そこで固まってるそこのこいつ」
徹に怒る若い青年。恐らく年は徹や隆史とそれほど離れていないような若々しさがあった。その男性は紺の袴を履いており、服装と会話から神社の関係者だと隆史には分かった。
急に徹に話を振られたために一瞬だけ背をびくりと震わせる。
「あっ、どうも」
「んー? お祓いって。君、お祓い受けたいの?」
「アッ、ハイ」
「……ふーん? まあ、お祓いなら、も少ししたら宮司様に話を取り次いであげるよ。取りあえず、こっちにきな」
名前も名乗らず、その男性はすたすたと本殿の方へと歩いて行く。
隆史はいぶかしげな表情を浮かべながら、その男性の背に着いていくのであった。




