ex3-5
「それで、大丈夫かよ?」
「あぁ、大丈夫、大丈夫。 ……たぶん?」
大学の講義室の一角。席順で言えばかなり後方。
徹は隆史の頭の包帯を指さしながら、心配そうに問いかける。隆史は心配をしてくれる友人に申し訳なさと感謝の気持ちが入り交じった表情を浮かべながら、この前あったことを説明し始める。耳の中で雑音がしていたこと、階段から不気味な声を聞いたせいで転げ落ちたこと、そして入院してから雑音が一切聞こえなくなったこと。ついでに医者からはまったく異常がなかったと言われたことも付け加えた。
「……あー? なんなん? 医者がそう言ってるなら大丈夫じゃないの?」
「いや、でもなぁ?」
『キーンコーンカーンコーン!』
2人の会話を遮るように、講義の開始を告げる鐘の音が鳴り響く。
同時に慌てて資料を抱えた中年の教授が講義室へと入ってくる。隆史と徹は会話を1度止めると、講義を受けるべく前へと向く。
「……なぁ、隆史」
「あん?」
禿げ掛けた教授の講義を聞きながら、徹はこそこそと小さな声で隆史へと話しかける。
怪訝な顔をして隆史の方へと顔を寄せる。
「知り合いの兄貴が今、お寺で修行してるんだけどさ」
「うん?」
「お祓い、行ってみない?」
唐突な提案。
普段、オカルトなどには微塵も興味なさそうな、もっと言ってしまえばオカルト否定派の友人から飛び出てきた言葉に目を丸くする。
「あー、いや。俺も正直オカルトなんて信じてないけどな。でも、ほら。気持ち的に楽になるかもしれないし」
「いや、俺、そんなこと頼んでないじゃん」
そんな会話を数度繰り返した後、徹は講義が終わった後にお祓いへと行かされることとなったのだった。




