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ex3-3

隆史が階段から転げ落ちた翌朝。

隆史はゆっくりと目を覚すといつもの見慣れた実家の天井ではなく、見知らぬ真っ白な天井であることに驚いた声を上げる。



「……こ、ここはっ!?」



「隆史っ……こンの馬鹿っ! 親に心配掛けさせて!」



 ベッドの脇でまんじりとせずに起きていた母親に抱きつかれて、隆史は目を白黒させる。

その横で父親が医者を呼びに部屋を飛び出していく。



「へっ、あっ?」



「あんた、昨日の夜に階段から落ちたんだよ。覚えてないかい? で、今病院よ」



「ええっ!?」



 隆史は驚いた声を上げるが、薄ぼんやりと思い出す。

数日間悩まされた雑音で寝付けなかったこと、トイレに行こうとしたこと、そして。そして。



「……何か聞こえたんだ」



「はぁ? 何言ってんだい、あんたは?」



 突然、変なことを呟く隆史に母親は怪訝な表情を浮かべる。

つかの間の沈黙。それを破ったのはドタドタと走る父親とその後をゆっくり歩いてきた医師の2人。そして医師は隆史の起きた様子を見ると胸から小さなペンライトを取り出す。



「初めまして、隆史君。私は君の担当医の桜木です。今、ここがどこか分かるかい?」



「あ、はい。先ほど母から病院に担ぎ込まれたと」



「ふむ、会話はしっかりと出来るね。じゃあ、このライトを目で追ってくれるかな?」



 桜木が翳すライトの光を右へ左へ、時折上下に動くのを隆史は目で追いかける。

数回その動作を繰り返した桜木は満足そうに頷くと、片手に持っていたカルテにすらすらと何かを書き込んでいく。



「ふむ、良かった。この分なら一応、2、3日は念のために入院して貰うけど、すぐに退院出来るよ。ただ頭に軽い裂傷と右耳の鼓膜が破れちゃっているから、お風呂入るときは気をつけてね」



 ”鼓膜が破れた”。そのことを正常な左耳で聞いた隆史は顔色が悪くなる。

昨夜までは静かな場所で聞こえていた謎の音。ここは病院。辺りは静かであるにも関わらず、その音が一切しなくなっていたのだ。



「あの……先生。ちょっと良いですか?」



「うん? なんだい」


 

 隆史は今まであったことをかいつまんで桜木に話す。

ゴミ捨て場で寝てしまったこと、それから謎の音に悩まされたこと、その音が今は聞こえないこと。桜木は静かに隆史の話を聞き終えると、頷きながら答える。



「そしたら、君の体調が落ち着いたら精密な検査をしようか。なあに、心配ないさ。この病院には大学付属病院だけあって最新機器もたくさんあるからね」



「あっ、ありがとうございます!」



 隆史はその言葉を聞くと、気が抜けたようにベッドへと横たわってしまう。

その様子を見て両親も医師もまた安心したのか、隆史のこれからの入院に必要なものなどを話し始める。



(ああ、良かった。入院して良かった……かも)



 隆史は安心しきって天井を見上げるのだった。

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