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酩酊した挙げ句ゴミ捨て場で寝ていた数日後、隆史の実家でのこと。
隆史は謎の音に悩まされていた。その音は雑踏や会話をしていればまったく気にならない程度のものであったが、ふと辺りが静まりかえったときや寝床についたときなどに微かに、だが確実に聞こえていた。
「何なんだ、これ?」
時刻は夜の1時。近くを通る車の音や風の音、そして遠くで爆走する暴走族のエンジン音以外は静かなものだった。
最初はただの勘違いだと楽観的に考えていた隆史であったが、毎日毎日その”謎”の音が聞こえていては流石に気になってしまう。それに耳栓をしていても聞こえてくるその音が気になってしまうせいで寝付けずにいた。そのせいで寝不足がちに陥っていたのだ。
「……トイレ、いくか」
畳の上に敷かれた布団から半身を起こすと携帯を片手に自室から出る。そして2階の自室から1階にあるトイレを目指して携帯の明かりを頼りに暗い階段を降りる。
隆史の家は築40年は経つ、古い日本家屋。そのため、一歩階段を降りる度にぎしぎしと音を立てていた。隆史にとっては20年住んで慣れ親しんだ家、そして数え切れないほど上り下りした階段、その度に聞いた階段が軋む音。小さい頃ならいざ知らず、大人になってからは微塵も怖くなどない。
「……************」
「えっ?」
階段の途中、ふと誰かの声を聞いた。聞いた気がした。
1階で寝ている両親以外には誰も居ないはずの2階から聞こえたような気がして、隆史は2階へと振り返る。だがその瞬間、視界が揺れて身体のバランスが崩れる。咄嗟に手すりを掴もうとした右手は虚しく宙を掴み、そして。
「うっ、うわおああああぁぁっ!?」
静かな自宅に響いた情けない叫び声と重たい音が転げ落ちる音。
その音で飛び起きてきた隆史の両親が見た物は階下で頭部から血を流した物言わぬ隆史の姿。
「た、隆史っ!? ねぇ、何やってんの、あんたっ!?」
「おい! 早く救急車呼べ!」
それから少しして救急車に乗せられた隆史は、病院へと搬送されていったのだった。




