第4章-2 水にストーカーされる女
雅司が大学の先輩である富江 エリからこの相談を受けたのが、サークルの打ち上げで行った飲み会の最中であった。
雅司は、そこまでお酒に強くなかった。それにも関わらず、女子の前で良い格好をしようとしてビールを飲み続けた結果、かなり酔いが回っていた。
酔っ払いながらも、先輩である富江がほとんどお酒に口を付けてないことに気がついた。
「あれ、富江先輩。どうしたんです? 体調が悪いなら、僕が部長に一声掛けてきましょうか?」
いつもなら、富江はどちらかと言えばかなり飲む方なのに、今日はほとんどお酒を飲んでいないことに、雅司は不審に思ったからであった。
「いえ、大丈夫よ。ありがとう。どちらかと言えば横溝君こそ大丈夫なの?」
富江は力なく笑うと、雅司のことを気遣うのであった。
「僕のことなら大丈夫ですよ! でも富江先輩、普段ならもっとお元気なのに、なんか今日は様子が違かったんで心配になったんですよ」
「そう……かしら」
富江はうつむきながら雅司の脳天気な声に応える。
「いや、なんか悩み事があるなら聞きますよ?」
数分ほど同じようなやりとりが、雅司と富江の2人の間をループしていたがようやく観念したのか、富江は重い口を開いた。
「実は……私、ストーカーされているの……」
「ええっ!?」
予想外のことに雅司は動揺する。
「えっーと、その、ストーカーってどんなヤツなんですか?」
「ああ、ごめんなさい。相手は人間じゃないのよ」
「はい?」
雅司は富江の言っている意味が分からず、混乱してしまう。
「こんなことを言っても信じてもらえないと思うけど、『水』が追ってくるのよ……」
「……すみません。どういうことか分からないのですが」
「そう……そうよね。 ……いきなりそんなことを言っても、意味が分からないわよね」
富江はコップを手に持ち、うつむきながら次の言葉を探している様子であった。
少し間を開けて富江は口を開く。
「……きっかけは、先月のことなんだけど」
――私、趣味で山歩きをするんだけど、先月高尾山に行ったのよ。もちろん1人じゃないわよ? 友達のメイ、佳奈、私の3人で高尾山まで行ったのよ。
それで、山登りをしていたときだったんだけど、途中で綺麗な沢を見つけたの。その沢も綺麗で、自然に溢れていて、ああ、ここは神聖な場所なんだなって何となく分かったわ。
でも、その沢が余りに綺麗で、その……そこの水を飲んでしまったの。私は、そこの水のおいしさに感動して……友達にもその水を飲むように勧めてしまったの。
あんなところを見つけなければ……私がみんなに声を掛けなければ……
ああ、ごめんなさい。話が逸れたわね……それで、私たちは、沢の水を空になったペットボトルに移して持ち帰ったの。
山に登って、3人でおしゃべりして、それでその日は家に帰ったわ。とても楽しかった……水は冷蔵庫に入れて、その日は早く寝たの。
次の日、大学に行ったら、登山に行った友達のメイが来てなかったの。いつもなら、一番に来ている子がよ?そのときは、ああ、山登りで疲れたのかな?って思っていただけだったの。
次の日も、そのまた次の日もメイは大学に来なかったわ。そこで、私たちも何かがおかしいって思ったの。連絡をしても何も返ってこないし。
それで……その子の家に行こうかとか話していたら、警察に呼ばれたの。話を聞いたら、メイは山登りをした日から、行方不明になっているって。私たちと別れた後、そのまま居なくなっちゃったんだって。
警察からは私たちに何か知っているか聞きたかったみたいだけど、私たちの方が何があったのか聞きたかったぐらいだわ。その子、特に家出をするような子じゃないし。
警察は私たちには関係がないと思ったのか、すぐに解放されたわ。その頃から、おかしなことが段々と増えていったの……
最初は、雨漏りだったわ。雨水が、私の寝室に垂れてくるの。それが、水の筋を作って、私が寝ているベッドに近づいてくるの。
気にしすぎって言う目をしているわね。 ……そうよ、私も最初は何も思わなかったの。家も古かったから、単純に壊れただけだろうって。
でも、雨漏りは私を、私たちを追ってきたの。大学で講義を受けている時も、バイトをしているときも、常に雨漏りがするようになったの。
流石に異常なのは私たちは気がついていたわ……でも、こんなことを話しても誰も信じてくれないわ。
それで……お祓いでもしに行こうと、佳奈と話し合っていたの。あの日は、ひどい夕立が降っていたわ。
私たちは、メイのこととかいろんなことを話しながら歩いていたわ。それで……そんなお喋りをしながら、川の近くを通ったときに『水』に襲われたの……




