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19-3

パトカーはけたたましいサイレンを鳴らし、八王子駅から一気に離れる。

少し前と違うのは清水の隣、助手席には雅司が座っていることであった。雅司は余りの車内の雰囲気にどぎまぎして後ろを振り返る。



「えぇーとっ、ジュリさん……? 『すぐに来て欲しい』ってメール見て仮病使ってバイトを上がったんですけど、一体何があったんです?」



「雅司君、ごめんなさいね。とりあえず、外から見えないように深く座ってくれるかしら?」



「あっはい……」



「おいおい、ジュリっ! なんでこんな”鼻垂れ”なんて連れてきたんだ!」



 運転席で前を向いたまま、半ば怒鳴るように話す清水。

その横で小さくなりながら哀れな小動物のようにプルプルと震える雅司。



「ジュリ、前も確かそいつを囮にして”黒なめくじ女”を引きずり出したことがあったよな。まさか、またコイツを囮に使うのか?」



「ひぃいいいいっ!」



 ジョンのその疑問を聞いた瞬間、さらに小さくぶるぶるとイスを壊さんばかりに震える雅司。

ジュリは小さく呆れた様に息を吐くと、手元に持っていた資料を隣に居る(ジョン)に向かって突き出す。



「毎回、私が非人道的なやり方をしているようじゃない。それにここ、よく見て。被害者はみんな小学生から中学生の女子生徒よ? 言い方は悪いけど老け顔の雅司君じゃあ囮にならないわ」



「……それもそうか」




「ひぃいいいいんっ!!!」




 先ほどの恐怖から出た悲鳴とは別種の――哀しみの慟哭が雅司の口から漏れる。

一方でジョンは納得のいった表情を見せるが、すぐに眉をひそめる。


「いや、ならなんのためにコイツをわざわざ連れてきたんだ?」



「そうね、それなんだけど”目撃者”になって貰おうと思ってね。私や兄さんじゃ、できないもの」



「意味がわかんねぇな」



「……ジュリ、俺にも分かるように説明してくれないか?」



「私や兄さんが見つけた証拠が使えなくなるって言うんなら”一般人”に見つけて貰うしかないでしょ。善良で蚊の1匹も殺さないような、そんな市民の人に」



「そういうことか。合点がいった。なら”鼻垂れ”が俺らと居るところを見られちゃ具合が悪いってコトだな。もうすぐ誘拐現場に着くが、まだ捜査一課(刑事課)が辺りに居るはずだ」



「そういうことよ。だから雅司君、頑張って見つからないようにしてね」



「はっ、はいぃぃいい……」



「なあ、ジュリ。ならコイツをトランクに詰め込んだ方が見つからないんじゃないのか?」



「兄さん、それこそ()()()()だと思わない? ……少しだけ考えたけどね」



「……え」



 雅司はショックの余り言葉を失い、ジュリの方を見る。ジュリはそんな雅司の様子を見るとクスクスと笑う。そして口パクで『冗談よ、冗談』と雅司に伝えると捜査資料に目を落とす。

それから程なくして、突如パトカーが減速していく。清水はパトカーを路地の端へと止めるとジュリとジョンに降りるように指示を出す。降りる3人を尻目に雅司は助手席で極力外から見えないような体勢で3人が戻ってくるのを待つ。


「あそこが娘さんの誘拐現場?」



「ああ」



 数台のパトカーが止まり、『立ち入り禁止』のテープが張られた一角が3人の前に現れたのだった。


 



 

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