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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
昏い海底より
167/229

18-7

海面には大きな波紋と水音が1つ。

海中へと潜水したジュリ。口に咥えたエアーフィンから供給された酸素を肺に送り込みながら、目の前にある”黒い壁”とも言うべき巨大な怪異を見やる。怪異”メゴロドン”は捕鯨船に気を奪われているのか、ジュリが潜水しても気がつく様子はなかった。ジュリは慌てずにゆっくりと呼吸をしながら、捕鯨船の照明によって明るくなった海中で怪異の観察をする。クジラの強靱な皮膚どころか、臓腑さえも抉ることさえ出来る捕鯨砲すら弾かれたのだ。ジュリの手に持つ”特別製”大型チェーンソーですら弾かれるのは目に見えていた。



(こんなに大きい相手でも、どこかしらには柔らかいところはあるはず)



 ジュリは酸素を脳内に送り込みながら、思考を巡らせる。

体長は捕鯨船よりも大きく、エラの辺りから海面へと伸びる真っ白な一対の長い腕。時折海中へと沈む背びれ。だが全体的なフォルムは流線型というよりも丸っこい形であった。そこまでジュリが観察したとき、”真っ黒な壁”の先端から丸い光が映る。ぎょろりとその”光”がジュリを捉える。



(っ!)



 刹那、大きな衝撃がジュリを襲う。怪異がジュリに向かって泳いだのだ。大きな物体が海中を動けば、それだけ周囲には大きな衝撃が走る。地上ならばいざ知らず、ここは海中。衝撃はまるでロケット砲のように、ジュリに襲いかかった。

衝撃は海流となり、一瞬でジュリの視界と身体の自由を奪う。海中でもみくちゃとなり、どちらが上でどちらが下か、怪異が前にいるのか後ろに居るのか、それすら分からなくなる。



『ブォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』



 ジュリの耳に入る雄牛の様な音。咄嗟にジュリはその音の方向に向かって、手に持つ海中仕様の通称『シロサメ』大型チェーンソーを振り抜く。

同時に金属同士が擦れ、削れる甲高い音を伴って海中で火花が散る。一呼吸を置いて目に入ったのは大きく開かれた”真っ赤”とその真っ赤を彩るように並んだ真っ白な三角。その三角にチェーンソーの回転する刃にぶつかり、甲高い音と火花を立てていたのだ。




『ブォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』




 その”真っ赤”から放たれる咆吼。衝撃で鼓膜が震え、脳髄が揺れる。

そして人1人など簡単に飲み込んでしまう”真っ赤”――怪異の口部がジュリを飲み込まんと地獄の釜が如く大きく開かれていた。同時にジュリは捕鯨船から離されていく。なんとかジュリは怪異に飲み込まれなどしていなかったもののの、は凄まじい速度でジュリを口に引っかけながら泳いでいた。遠くとなった捕鯨船の明かり。捕鯨船に乗っていたジョンもそのことに気がついたのか、捕鯨船のタービンが動き始めたのがジュリの目にも映る。





『ブォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』



(うるっさいわね)



 遠くなる捕鯨船の明かりを見つめながら、ぼそりと内心で呟く。

ジュリは両手でメゴロドンの牙を押さえながら肘でチェーンソーの手元を弾く。チェーンソーに仕込まれていたかぎ爪の付いた銛先、それがロープを伴ってメゴロドンの口内へと突き刺さる。




『ブォォッ!?』



 銛先にはロープが繋がっていた。再度、肘でチェーンソーの仕込みを弾くジュリ。

途端にロープは撒かれていき、ジュリの体は海中に僅かに血が流れながらメゴロドンの口内へと消えるのであった。

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