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捕鯨船はさらに突き上げられ、その度にジュリとジョンの2人は海に落下しないように辺りのものに捕まるばかりであった。
船体は軋み、激しく揺れる海面から放たれた波飛沫をもろに2人は浴びていた。ジュリは濡れた髪を振り乱しながら兄に向かって声を大きくして話しかける。。
「兄さんっ、別の作戦は?」
「……別の作戦? プランBってことかっ!?」
「何でも良いけど、そのプランBは?」
「プランBは”尻尾を巻いて逃げる”だ! 作戦名は”命を大事に”!」
「……要するに何も考えてなかったってワケね」
ジュリは呆れた様に苦笑すると、船縁に捕まりつつ背から大型チェーンソーを下ろす。
真っ青のボディに大きく口を開けたカトゥーン風サメのイラスト。その独特なペイントのチェーンソーを片手で掴みながら、口でリコイルを引く。リコイルを引いた瞬間、すぐさまチェーンソーはジュリの腕の中で低いエンジンを上げ始める。
「あーあ、この『シロサメ』チェーンソーはお気に入りだったのに。なら、兄さん。プランCはどう?」
「プランCだって!? お前、一体何をするつもりだ!?」
「固い皮膚のせいで銛が通らないなら、それを剥げば良いのよ」
ジュリは辺りに落ちたマウスピースに小型の酸素ボンベをつけた通称エアーフィン――簡易潜水機を口に咥え、水中用の眼鏡を掛ける。
そしてジュリは兄に向かって右手をひらひらと揺らすと、暗い海中へと消えるのであった。




