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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
昏い海底より
162/229

18-2

 岩海水浴場。神奈川県の西部にあるこの海水浴場に2人の男女の姿があった。それはジュリとジョンの兄妹であった。

灰色の砂浜を革のブーツで踏みしめたジュリは海原に向けた双眼鏡から目を離すと、ため息を吐く。



「兄さん。ねぇ、海には普通、夏に来るものじゃないの?」



「ああ、そうだな」



「じゃあなんで、私たちは11月のこんな寒い中で海水浴場に居るのかしら」



「仕事だからな。夜に漁に出た漁船が連続で行方知れずになった調査。先週からここの漁師達の4人が海から帰ってこないんだと」



「それで一昨日にここへ流れ着いたウーチューバーの船から怪異らしきものが映っていたのよね。それで兄さん。その格好は?」



 ちらりとジュリは隣に立つ兄の姿を見る。

天気は澄み切った青空。しかしジョンは蛍光色の合羽を着込んでいたのだ。



「潮風は銃に悪いからな。お前のチェーンソーは?」



「バラバラにしてちゃんと持ち歩いてるわよ。しっかりと潮風対策はしてね。それで使える船は?」



 ジュリは再度双眼鏡で辺りを見渡す。

目に入るのは遠くで浮かぶ釣り客を乗せた漁船ばかり。



「今、手頃なものがないか連絡を取っているところだ。ある程度改造も必要だろう? 動画を見たがかなり大きい怪異みたいだしな」



 ジョンは胸のポケットから皺の付いたA4の紙を取り出して目の前で広げる。

それは引き延ばされた1枚の画像。”ウーチューバー上島”が暗い海へと引きずり込まれるその瞬間。青白い細い腕に船縁で見切れるサメらしき背びれ。その紙をジュリは双眼鏡から目を離して覗き込む。



「動画を見たけど、22フィート (約6.7メートル)もあるヨットをあんなに揺らせるなんて」



「そんだけ馬鹿でかいんだろうな。 ……刺身にしても美味くはなさそうだ」



 ジョンは画像を見ながらぼそりと呟く。

ジュリは兄のその調子に笑いながら再度双眼鏡を覗き込んだときにあることに気がつく。



「……ねぇ、兄さん。あそこのブイみたいなのが浮いている場所、分かる?」



 ジュリは兄に双眼鏡を手渡して尋ねる。

ジョンは怪訝そうな顔をして手渡された双眼鏡を覗き込むと、ジュリが指した場所を探す。



「どこだ?」



「あの赤いブイの近く。何だかすごく水飛沫が上がってない?」



「んー、ああ。ありゃあ……」



 ジョンもまたジュリと同じものを見つけたとき、ちょうど帰りの釣り客達を乗せた漁船がその水飛沫の脇を通過する。

漁船によって生じたうねりによって、水飛沫の元が姿を現す。同時に漁船に乗っていた釣り客達もまたその存在に気がつき、悲鳴を上げる。




「水死体だな、しかも上半身だけの」



 水飛沫の正体、それは水死体に群がる魚群から生じていたものだった。

下半身は何かに食い千切られ、上半身だけとなった男の水死体。それがぷかぷかと波間を漂っていた。



「んー、だいぶふやけてるけどあれって行方不明になっている猟師の1人じゃ?」



 ジョンはその水死体を回収して貰うために、電話を掛けながらぼそりと呟いたのだった。



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