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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
昏い海底より
161/229

18-1

季節は秋も深まった頃。頭上には三日月が煌々と辺りを薄く照らしていた。

小さなヨットに乗った男が、ある地点を目指して操縦していた。



「この辺りで良いかなぁ?」



 男はイカリを下ろした場所は相模湾の外湾近く。

しっかりと海底へと下ろしたのを確認すると、釣り竿とカメラを取り出す。



「はい、どーもっ! 特攻釣り野郎☆Cチームちゃんねるへようこそーっ! 特攻釣り野郎の上島でーす! 今日は相模湾で夜釣りをしまーすっ」



 上島は仕掛けを海へと落としながらカメラに向かって喋り続ける。

辺りは真っ暗闇。上島の声だけがさざ波の合間を抜けていた。



「今日はー、取りあえず適当に五目釣りをしつつー、朝まづめにカワハギを狙う感じでやっていこうとー、思いますっ」



 上島はカメラに視線を向けながら喋り続ける。

時折小さな当たりを上島は楽しみながら釣れた魚について解説をする。



「このお魚は、太刀魚といいまして。えっーと美味しい食べ方はですねぇ。うん?」



 ゴツン、ゴツン。

船の横腹を何かぶつかる音。



「……なんですかね? うぉおおっ!?」



 突如、ヨットが激しく左右に揺れる。

波飛沫が宙を舞い、上島は船縁に捕まってその揺れに耐える。



「おおおおっ! おっ?」



 揺れ始めたと同じように揺れも突如収まる。

上島は恐る恐る立ち上がると、設置されたカメラに駆け寄る。カメラは幸運にもしっかりと固定されていたために、海へと投げ出されることは無かった。



「ふぅ、このカメラが海に落ちなくて良かったよ。 ……えっーと一体これは何事なんですかねぇ。”大物”でもいたんですかね?」



 上島はカメラの録画を続けながら暗い海面にLEDライトを当てる。

海面に向かって照明を向けると、上島は大きく目を見開く。



「えっー、これはっ! 大きなサメの背びれが見えますね! さっきこのヨットを揺らしたのはこのサメだったんでしょうか? おいっ、俺は餌じゃないぞっ」



 上島は内心ほくそ笑んでいた。

突然のアクシデント、予想外のピンチ、面白いオチ。再生数はうなぎ登り。上島の脳内には100万再生の文字がちらついていた。



「それじゃあ、皆さんにもこのデカい背びれを見て貰いましょうか? ……えっ」



 カメラを取ろうとした体勢で、上島は動きを止める。

否、動きを止められた。上島は右腕に掛かる”圧”にゆっくりと目を向ける。



「ひっ」



 小さく上がる悲鳴。

上島の右腕に絡みついた細く青い腕。そして次の瞬間には上島の姿は暗い海へと消え去る。



 大きなものが海へと落ちる音が1つ。

そしてその後は静けさがただただ残るばかりであった。

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