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怪異に乙女とチェーンソー  作者: 重弘 茉莉
番外章:山の中で
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EX2-8

――雅司が命からがら山から降りた2日後のこと。

帝都大学大学の最寄りの駅に併設された、ここサンマール・カフェでココアを啜っていた。そんな雅司の目の前にはチョコパフェをつつく1人少女。



「……と、こんなことがあったんです。ジュリさん、あれってなんなんですかね?」



「おそらくそれは行者(ぎょうじゃ)ね」



「行者……?」



「行者、わかりやすく言えば山伏に近いイメージかしら。雅司君が見たオレンジの毛糸は、彼らが胸に着けている、そうね、ボンボンみたいなの分かる?」



「何となくは」



 雅司の問いにに答えるのは”怪異狩り”を生業にしているジュリ。

ジュリは目の前のチョコパフェに舌鼓をうちながら、言葉を繋げる。。


「あれって梵天(ぼんてん)って言うんだけどね。毛糸はそれの一部だと思うわ。彼らの中でも密教系の宗派は、自然回帰を謳う人たちも居てね。獣の毛皮を被って自然と一体となり、その力を借りる儀式があるって聞いたことあるわ」



「なら、アレは人間だったってことですか?」



「さあ。獣の皮を被った”元人間”かあるいは元からそういう怪異なのか。あるいはもっと別のものか。そこは分からないけどね。ただ言えることが1つ」



「はぁ……?」



「人を襲う”怪異”相手に生きて戻って来られたってことよ。それで良しとしないと、命がいくつあっても足りないわよ?」



「え~、ああ、はい……分かりましたよ。ただ」



「ただ?」



「”ガンプ”に襲われてから、命に関わるような怪異に出会ってばかりなんですけどこれってなんなんですかね?」



「”運”が悪いだけでしょ。怪異に襲われるなんて、街中で車に轢かれるよりか確率は低いし」



「運って、そんな」



「ただ、1つだけアドバイスがあるとすれば……」




 ピピピピピッ! 




 スプーンを手に持ち、雅司にアドバイスをしようとしたジュリ。テーブルの上に置いたジュリのスマートフォンが着信を知らせる。

スマートフォンの画面には『兄さん』と表示されていた。ジュリは画面をタップすると、着信を受ける。



「もしもし、兄さん?」



『ジュリ、今大丈夫か?』



「ええ。仕事の話?」



『おう、G県で変なバケモンが出た。分かっているだけで猟師3人、山狩りに出た警官1人が食い殺されたらしい。生きて帰ってきたやつが言うには”デカくて黒いなにか”がいきなり襲って来たって話だ。 ……熊じゃねーのか、これ?』



「熊かどうかは行けば分かるわ。 ……ところでG県? もしかして高手山?」



『ん、ああ。そっちにも清水のおっさんから連絡いってたか?』



「いえ、違うわ。ただちょっとその話をしていたのよ。荷物を取りに家に帰りたいから向かえに来てもらえる? 場所は帝都大学駅ね」



『すぐに行くわ。じゃあ、また後で』



「ええ。あ、車の中で資料も見たいから持ってきてね」



『ああ、はいはい。じゃあな』



 ジュリは通話の切れたスマートフォンを耳から離すと、再度スプーンを持ってチョコパフェをつつき始める。



「えぇと、ジュリさん。さっきの電話って」



「たぶん、雅司君の言っていた怪異ね。ああ、まったく。G県の山歩きなんて、嫌だわ」



「……そういえばさっきのアドバイスってなんです?」



「あら、忘れてたわ。そうね、アドバイスは”忘れる”ことよ」



「わ、忘れる?」



「そうよ。変に疑り深くなっても”藪蛇”になるだけだし。警戒心だけは忘れずに、変なことに頭を突っ込まない。それが一番だわ。”関わらない”ことが一番の怪異の対策よ」



「……そんなもんですか」



 雅司は納得がいくような、いかないような表情を浮かべてジュリを見つめる。

一方でジュリはチョコパフェを食べ終えて、食後の角砂糖を6つ入れた激甘のミルクティーに口をつけていた。



「そんなものよ。あ、まだ雅司君はここにいるでしょ? チョコパフェとミルクティー、チーズケーキとイチゴのタルトの代金はここに置いておくわね」



 そういってジュリはハンドバックから財布を出すと5000円札を1枚取り出してテーブルの上に置く。



「ああ、良いですよ。今日誘ったのは僕ですし」



「前も奢ってもらちゃったし、自分の分は自分で払うわよ。じゃあ、お会計お願いね」



「あっ」



 ジュリは5000円札を雅司に押しつけるように渡すと、手を振ってお店を出て行く。

その背を見つめながら雅司は大きくため息を吐く。



(これじゃあ、まるで年上の従姉妹に憧れる甥っ子みたいだなぁ)



 雅司はそんなことを考えながら、飲み物を注文するべく店員を呼ぶのであった。

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