EX2-4
寝入ってから数時間後、ふと雅司は目を覚ます。寝る前にランタンは点けっぱなしにしたせいか眠りが浅かったのだろう、微かな物音を聞いた気がしながら目を覚ます。
(……?)
夢うつつながら、なんとか思考を呼び戻す雅司。
ぼーっとした頭で耳を澄ますが聞こえてくるのは虫の音と時折川から何かが跳ねる音だけ。眠い目を擦って隣のテントの方を見る。隣に設営した田口のテントは死んだように真っ暗闇。
(ションベンでもしてまた寝るか)
枕元に置いておいたランタン手に持ち、入り口であるテントのジッパーをゆっくりと下ろす。
顔だけ出して辺りを見渡す。暗くて不安とはいえ、テントのすぐ脇で立ちションをしたくはない。川に向いて”開放感”を味わうのもありといえばありだが、翌朝もその立ちションをした川で釣りをするのだ。流れるとはいえ、その川で釣れた魚を口に入れるのは気分が悪い。
(森の中に入るかぁ)
川とは反対側。鬱蒼とした森の方。
なに、ちょっと入って”コト”を済ませてテントに戻るだけ。時間にすれば5分と掛からないだろう。一応、熊よけのスプレーを手に持って森の中へと足を踏み入れる。森の中に入ること数メートル。雑草を踏みつけ、ちょうど良い樹に陣取るとズボンのチャックを下ろす。そしてそのまま、尿意に従って己を解放する。
「ふぅ~。ん」
膀胱は空になり、満足感が胸一杯に広がる。
チャックを上げて上機嫌になり、ふっと気の抜けた雅司の目にあるものが映る。ランタンの明かりが僅かに届く森の奥、ぐちゅぐちゅと”何かが”蠢いていた。同時に鼻腔へ濃厚な鉄さびの匂いが雅司の鼻へと突き刺さる。
(……!????)
大きさは見たところ雅司よりも大きくて横幅も太い”獣”。真っ黒で、最初は細かく震えていたように見えたが、よくよく見ると皮膚が細かいミミズが内部から押しているような、奇妙な様相。
少なくとも熊ではない。熊の毛皮を剥いで、その中に太いミミズを押し込んだような――そんな獣が雅司の視界の中にいたのだった。




