17-9
火の元には子供のようにマネキン達があつまっており、まるでそれはキャンプファイヤーのように燃えさかっていた。
もっともその火の元は組まれた薪ではなく赤子のように身を縮めた巌であったが。
「い、巌さん……」
結衣の日本刀を握る手は汗でじっとりと滲む。
目の前でマネキン達を屠っており相方である巌が、一瞬で床へと倒れ伏す。何度も結衣と一緒に様々な仕事をしてきた巌。結衣はそんな彼に信頼と信用を寄せていたのだった。まるで父と娘のように。
「い、嫌や……」
咄嗟に火を消そうと近寄ろうとする結衣の前に、まるでゾンビのように群がるマネキン達。
「どけ、どけやっ!」
結衣は日本刀を振りかざし、マネキンをへと斬りかかる。
「どけっ!」
目の前のマネキンの両の腕を切り落とし。
「本当にっ……!」
己の胸に抱きつこうとしたマネキンに後ろ蹴りを入れ。
「どいてやっ……」
マネキンの身体を縦に叩き切る。
懇願するように結衣は声を出しながら、己に迫るマネキンどもを蹴散らす。だがどこから湧いたのか、蹴散らしても蹴散らしてもマネキン達は結衣に襲いかかってくる。
「ちょっと、落ち着いて」
結衣の背を守るようにチェーンソーを振るっていたジュリは声を掛ける。
そして見せつけるように床に転がったマネキンの頭を踏み砕く。
「今まで切ったマネキン達を落ち着いてよく見て。いくらここにマネキンがたくさんあったとしても、多すぎでしょ」
「そんなことよりも、巌さんのことが優先や!」
「……そのためにこのマネキン達を減らさないといけないでしょ」
まるで渋谷のスクランブル交差点のような人混みに似たマネキン達の壁。
切っても切っても減らないマネキン達。結衣はジュリに声を掛けられて少しだけ落ち着きを取り戻す。
「……これ」
切り伏せたはずのマネキン。それらは切られても動きを止めることはなかった。
床にばらまかれたパーツの切断面と切断面がくっつくと、元通りに立ち上がるのだった。
「踏みつぶせば良いのよ。それこそ粉々に」
結衣の目の前で、再度床に転がったマネキンの胸をジュリは踏み砕く。
床に撒かれた破片はびくびくと微かに震えると、動きを止める。
「コイツらをどうにかすれば……ああっ!?」
結衣は巌の方に視線を向けると、小さな悲鳴を上げる。
床に倒れていた巌のすぐ前にしゃがみ込むスーツ姿の若い女。先ほどまで居なかったはずの女。それが楽しそうに笑いながら、頬杖を突いて巌を見ていた。
「巌さんに触るなやぁっ、この女狐ぇ!」
一気に落ち着きを無くした結衣はその女に向かって斬りかからんと飛びかかる。
だが。
「こんの、離せやぁ!」
マネキン達は手を伸ばし、結衣の着物の袖、髪、腕。至る所を掴み、結衣の身体を万力のような力で引き裂かんと締上げる。
ジュリは結衣を助けるべく、チェーンソーで薙ぎ払うが次から次へと湧いてくる。
『アナタの皮膚美味しそうねぇ』
スーツ姿のその女は楽しそうに燃えさかる巌を見つめる。
そして辺りには着物を裂く音が響いていた。
「……俺の皮膚の代わりに、これでも喰らえや」
倒れて燃えていた巌。
その燃えさかる身体を起こすとスーツの胸を掴み上げる。そして思い切りその女の顔面をガントレットを嵌めた右手で振り抜いたのだった。




