17-8
トラックは火だるまになり、清水の握るハンドルは宙を切る。
フロントガラスは高熱で変形し、清水に向かって降り注ぐ。
「ぬぁああああー!??」
清水の咆吼とともにトラックは横転して車線を飛び出し、近くの大型ブティックへと飛び込む。
ショーウィンドウは割れ、店外に居た人間の叫び声が辺りを木霊する。
幸いなことに、既に閉店時間をかなりすぎていたためか、店内には人の気配はなかった。
静かな店内に突然雷轟のような音と火炎、そして火花が飛び散り、響き渡る。トラックはレジを吹き飛ばし、棚を倒し、店内の1本の支柱にぶつかるとようやく動きを止める。
刹那の暗転。
意識の飛んだ清水は痛みと熱気で覚醒する。ぱらぱらと顔に降ってくる焼けた壁紙と天井片を振り払うと、外に出ようと清水はドアに手を掛ける。
「ちっ、開かねえか……」
皮膚に感じる熱気を感じながら、外に出るべく天井を向いた助手席のドアを蹴破ろうと何度も何度も蹴りを放つがびくともしない。
だが諦めずに何度も清水は蹴り続ける。その数が20を数えたとき、突然ドアが一気に解放される。
「おい、清水のおっさん。大丈夫か?」
「おおっ、ジョン。助かったぜ、手ぇ貸してくれ」
清水は手を伸ばすと、ジョンもしゃがみ込んで清水の手をしっかりと掴む。そのまま思い切り力を込めて引っ張り上げる。
額から血を流しながらも、清水はジョンの力を借りて車外へと這い出る。
「他の奴らは無事かっ!?」
「おっさんよりもぴんぴんしてるよ。早くここから離れてくれ、辺りの封鎖も頼むわ」
ジョンは火の着いていないタバコを咥え、腰から大型拳銃の|Pfeifer Zeliskaを引き抜く。
清水は足下から立ち上る自身の革靴が焦げる臭いに気がつくと、急いで車体から飛び降りる。
「おい、ジョンッ! 早くこっちに来ないとトラックのガソリンに引火して爆発するぞ!」
「ああ、そうだなぁ」
「……?」
ジョンは悠々とタバコにトラックから昇る火炎で火を点けると、立ち上がって辺りを見渡す。
清水はジョンの様子に困惑しながらも店外へと出るために入り口へと振り返る。
「おっさん、一気に走れ!」
その瞬間、清水は理解する。
トラックから立ち上る火炎の明かりに照らされて、何体もの人影が清水とジョンへと目掛けてぎこちない動きで迫っていることに。その人影は色鮮やかで色とりどりな服装をして、ガラス玉のはめ込まれた目で清水を見つめていた。
「マネキンが動いてやがるのかっ!」
清水は胸から制式拳銃のニューナンブを抜くと、ガラス玉の目玉がはめ込まれたマネキンへと弾丸を放つ。だが、眉間と目に弾丸が当たるものの穴が穿かれるだけで、まったく動きを止めることはなかった。
清水はそこでもはや無駄玉と判断すると、ニューナンブを胸へと戻して全速力で駆け出す。マネキンの包囲網から逃げるべく、マネキンとマネキンの間を走り抜ける。
だが。
「離せ、この野郎!」
1体のマネキンに腕を掴まれ、清水は足が止まる。まるでそのマネキンの手は万力。
清水の腕はメキメキと音を立てて悲鳴を上げる。咄嗟に清水は思いきりマネキンの顔を殴りつけるが、まったく意味はなかった。
「おっさん、ちょっと動くなよ?」
ジョンの声とともにマネキンの腕が砕け散る。
ジョンの手に持つ|Pfeifer Zeliska。別名”ゾウ殺し”とも呼ばれる拳銃。それが火を噴く度に人体を模したマネキンは砕け、オモチャのように吹き飛ぶ。
「~っ、痛ってぇ……。おっさん、早く外へ行けっ!」
「お、おお。後は任せたぞ! 死ぬんじゃねぇぞ!」
ジョンはその拳銃の反動からくる苦痛に顔を歪めながら、清水を逃がすべく弾丸を吐き出し続ける。
そして何体ものマネキンをその弾丸で粉砕し続ける内に、清水は外へと飛び出すことに成功する。外に出た清水は一瞬だけ中に振り返ると、そのまま消えていった。
「さてさて」
ジョンは咥えていたタバコを吐き捨てると、痺れている手で新たにタバコを口へと運ぶ。
そして熱くなった|Pfeifer Zeliskaの銃身で火を点ける。
「狐狩りの始まりだな」
ジョンはトラックから降りると目の前に迫ってくるマネキンの照準を合わせるのだった。




