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右目から血の涙を流し、無事な左目で視線の先のカップルを見る。
しかしそこにはカップルの姿は無くなっていた。正確に言えば男の姿がなくなり、女だけが立ち尽くしているだけであった。
そこでジュリはあることに気がつく。女の影に隠れていたが、男は下半身だけになっていることに。
そしてビルの灰色の壁や黒ずんだ地面にこびりついたどす黒い肉片や真っ白な骨片が、重力に従ってゆっくりと垂れていた。まるで『爆弾』の様に炸裂した男の下半身が膝を着き倒れ伏す。
「おい、ジュリ!」
男が膝を着くと同時にジョンは構えたスラッグ弾入りのオートマチック・ショットガンのベネリM3が火を噴く。
そのジョンの動きに合わせるように、ジュリは左目だけでその女を視界に捕らえながらチェーンソーの刃を回転させながら一気に距離を詰める。
ジョンが放った銃弾は女の首元を正確に捉え、12ゲージのスラッグ弾が何発も突き刺さる。
ヒグマやバッファローといった大型生物すら数発で沈められる威力を持つ弾丸を身に受ければ、如何な怪異とて多少なりとも損傷を与えられるはず。否、与えられるはずであった。
「は?」
その女は首筋に弾丸が突き刺さったまま、身じろぎ1つしない。
ジョンはその異様を見ながら、手早く次のスラッグ弾をベネリM3へと装填する。
そしてそのジョンの発砲に合わせて女の背後へ強襲を仕掛けるジュリ。
大きくチェーンソーを振りかぶり、女のうなじへと向けてその煌めく刃を勢いよく振り下ろす。
「えっ?」
だがその刃は女の首筋を切断することはなかった。
まるで固くて分厚い金属を切断しようとしているように、火花が辺りへとまき散らされる。
『あ”あ”あ”ぁ”』
ジュリが女の首筋へと刃を当て、ジョンが弾丸を装填し終わったと同時にビル街へと響く奇妙ないななき。
人間の声とはほど遠い甲高い獣に似た声が、その女から発せられる。
そしてその女のすぐ傍に居たジュリは全身を焼かれる感覚に包まれる。
そして少し離れたところに居たジョンもまた、身を焼く熱風に包まれてビルの壁へと叩きつけられたのであった。




