17-2
古びたセダンに揺られる清水、巌、結衣の3人。
夕日は沈んでいき、辺りは段々と薄暗くなっていく。
「あーちゃん、”あれ”からどう、なんか変ったことでもあった?」
無言の車内で口火を切る巌。
清水はヘッドライトに照らされた灰色の道路をただ見つめながらゆっくりとした口調で答える。
「うちの嫁さんが少し太って、娘は絶賛反抗期突入さ。『臭い』なんて言葉は毎日聞いてるよ。お前さんの方はどうだ、府警を辞めてからちゃんと食えてるのか?」
「あたしはなんとかやってるわー、まあ1人はまだ慣れないけどねぇ」
「そう、か。まあ、元気そうで何よりだ。 ……そろそろ着くぞ」
セダンが着いた場所、そこは日本警察の本部である警視庁。
そのまま清水は警視庁の地下駐車場へと車を滑り込ませる。そして空いている場所へとセダンを止めると、サイドブレーキを引いてエンジンを切る。
「っと、着いたぞ。会議室を予約してあるから着いてきてくれ。資料もその時に渡そう」
「すみません、ありがとうございます。わざわざ、迎えにもきてくれはって」
「結衣ちゃん、そんなこと気にしなくたっていいのよ~。お礼は後であたしがあーちゃんに一肌脱ぐって言ってあるから」
「……巌、あんまり気持ち悪いことを言わないでくれ」
疲れたような表情の清水と意気揚々とした巌、その2人を奇異な目で見つめる結衣。
そんな3人は車を降りて、会議室へと向かうのであった。
*
――3人は向かい合う形で会議室の机を囲んでいた。
その机の上には数十枚もの写真と捜査資料が置かれていた。
「ね、あーちゃん。電話で聞いたときよりも捜査資料が多いみたいだけど」
「ああ、こっちのは今朝発見された事件の写真だ。このやり口は九尾欠け《くびかけ》だろうしな」
清水が指を指したその被害者の写真。
そこには手をボクサーの様に折りたたみ、全身が真っ赤になった男性の無残な姿があった。
そしてその遺体はまるで学校に置いてある人体模型の様に全身の筋肉が露出していたのであった。
「まるで北京ダックだ。キツネ色に焼けた死体に皮が全部剥がされていやがる。今週に入ってからは毎日だ。もう10人以上は殺されちまった」
「8年前の事件と一緒ねぇ。あんまり思い出したくないけど」
「あの巌さん、なんでこれって九尾欠け《くびかけ》って言うん?」
「ああ、それはねぇ。あたしがこの怪異を見て名前を付けたのよ。8つと半分の尾を持った銀毛の狐、まるで伝説の九尾の狐のもどきみたいだから九尾欠け《くびかけ》って、ね」
「そうなんか。で、この九尾欠けって今どの辺りに出そうなんや?」
「ああ、それはな……」
そこまで話したところで突如清水の携帯が無機質な呼び出し音を告げる。
清水は携帯に表示された名前を見ると、通話ボタンを押す。
「ジュリか、どうした?」
『もしもし、清水さん? 銀尾の女の情報、もっとないの?』
「銀尾の狐だと? おい、お前たちは大丈夫なのか」
その言葉を聞いた瞬間、会議室に緊張が走るのであった。