17-1
東京駅。新大阪からの新幹線、のぞみから降りる一組の男女。
男はぴっちりとした黒革のライダースーツを着ており、身長は2メートルを超す大男。一方で少女の方は黒髪をポニーテールのようにまとめ、色白なのに唇は対照的に紅い。そして彼女が着ている着物もまた唇と同じように真っ赤だが、一方で袴とブーツは漆黒であった。
「はぁ~ん、ホント窮屈だわん。ね、結衣ちゃん。あたし、次は席を2つ繋げたいわぁ~。席が1つだけじゃきついわよ~」
筋肉質な体をくねくねとくねらせて話し始める大男。くねくねと体を動かす度に、はち切れそうな筋肉。
それを薄気味悪いモノのように見る結衣と呼ばれた少女はため息交じりに答える。
「アンタがデカすぎるだけやろ。隣に座ってたおっちゃんが化けもん見るような目で見てたわ」
「あらん、あたしの美貌に見とれてたんじゃなくって?」
「……まあ、ええわ。それで、巌さん、”こっち”に伝手があるって言ってたやろ? あれ、どうなってん?」
「もう連絡済みよ~。ダンディなおじさまが西口に迎えに来てくれるって」
「ほんなら、さっさと待ち合わせ場所にいこか」
そういうと結衣は竹刀袋を背負ってから手荷物を持ち、巌は両手に大きな旅行鞄を抱えて歩き始める。
人並みをかき分け、ダンジョンのような構内を通り抜け、2人は西口へと辿り着く。
「そういえば、待ち合わせの時間ってあとどれくらいなんや?」
結衣はちらりと自身の腕時計を見る。
時刻は午後の3時を少し回っていた。
「時間はちょうどのはずなんだけどねぇ。ね、結衣ちゃん、ダンディなおじさまが居たらあたしに教えてくれない?」
「そんなん分かる訳ないやろ」
結衣は辺りを見渡すが、彼女自身の低身長に加えてその迎えにくる人物の顔や名前さえ知らないために誰がその迎えの人物がわかるはずも無かった。
その様子を見てクスクスと笑う巌。だが、ある人物が近づいて来るのを見て、結衣の肩を軽く叩く。
「あーちゃん、久しぶり~。7,8年振りかしら? 相変わらず、とってもイケてるわね」
「鬼丸《おにまる》、お前さんは変りすぎだ。警視庁と府警で合同捜査したときはもっとまともだっただろう?」
くたびれた茶色のスーツを着た白髪交じりの男が巌と懐かしむように話す。
一方で置いて行かれた形となった結衣は会話に入るタイミングを窺っていた。
「ちょっとええですか?」
「ん、ああ。君がこいつと組んでる退治屋かい?」
「はい。えぇと、うちは仲小路結衣って言います。今回は協力してくれはってありがとうございます」
「あ~、俺は清水 明夫。この馬鹿から聞いてると思うが警視庁捜査一課第三特殊捜査係の刑事だ」
「あ~ひどーい。あたしの名前は馬鹿じゃなくて鬼丸巌っていうちゃんとした名前があるんですぅ」
むくれたように頬を膨らませる巌。
その様子は40を超えた男がする仕草ではなかった。だが、それもつかの間のこと。巌の雰囲気が張り詰めたものになる。
「あーちゃん、九尾欠けがこっちに出たって聞いたわ。それも何件も。全国で神出鬼没な”アレ”がなんでここにずっと居るか知らないけど、今ここで叩くしかないわ」
「……まあ、こんなところで話す話でもないな。場所を移そう」
巌のその雰囲気の変わりを察し、清水はは外で待機させておいた古びたセダンへと2人を促す。
夕暮れ街を滑るようにセダンは走り出すのであった。




