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「具合が悪いって聞いたから、これお見舞いに持ってきたわ」
ジュリは手に提げたビニール袋をドアスコープに近づける。」
そのビニール袋は近くのスーパーのものであり、中にはカップアイスやゼリーなどが詰め込まれていた。
「出来たら直接渡したいんだけど、だめかしら?」
奈緒はジュリのその言葉に反応出来ずにいた。
玄関越しにジュリの姿を見た奈緒は、ゆっくりと深呼吸をすると玄関の鍵を開ける。
「久しぶりね、ジュリ。私のこと誰から聞いたの?」
「昨日連絡が来たのよ。まあ、奈緒のことは色々大学で噂になってるし」
ジュリは奈緒の幽鬼のようになった顔色と表情を見て顔を曇らせる。
「ところで、何があったのか教えてくれる? ……まともな様子には見えないけど」
「……そうね、とりあえず中に入って」
奈緒は玄関扉を大きく開けると、ジュリを招き入れる。
そしてふらふらと自室へと引っ込む。
「おじゃまするわね」
ジュリも奈緒の背を追うように玄関で靴を脱ぐと、すぐさま奈緒の部屋へと足を踏み入れる。
ベッドに倒れ込んだ奈緒を尻目にジュリはベッド脇のゴミだらけとなった机を片付ける。
「それで、何があったの?」
ジュリは栄養剤の瓶とコーヒー缶を分別しながら奈緒に尋ねる。
奈緒は言葉を選ぶようにしばし押し黙るが、出た言葉はジュリへの謝罪であった。
「ジュリ、ごめん。私、お葬式のときにアンタに酷いこと言ったわ……八つ当たり」
「……そんなことなら、気にしなくて良いのに。私たち、友達でしょ?」
ジュリはゴミ捨てをする手を止めずに、何事もないように答える。
一方で奈緒はベッドにうつぶせになったまま、ぽつりぽつりとこれまでのことを語り始める。
「紫苑が出てくるの、どこにでも。最初は夢の中に出てきて、首を絞められたわ。それで、これを見て」
奈緒は首に巻いていたスカーフを外す。
そこにはくっきりとした手形の青アザが、首筋に刻まれていた。
「私が、出掛ける度に紫苑が出てくるの。この前は電車の窓ガラスの中に居たわ。ずっと、あの死んだときの格好で私に『なんで、アタシだけ』って、そう言うのよ」
ジュリは黙って奈緒の言葉を聞き続ける。
「紫苑のこと、私は友達だって思ってたのに! わ、私に死ねって言いたいわけっ!?」
奈緒は興奮しながら、半ば叫ぶように喋る。
黙って聞いていたジュリは、奈緒の興奮が収まるのを待ってから声を掛ける。
「ねぇ、奈緒。確かに紫苑は私たちを恨んでるかもしれない。ただ、それはあの子の八つ当たりよ。それに」
ジュリは自身の首筋を指さしながら喋る。
「たぶんだけど、紫苑は今回のことに関係ないわ。奈緒、アナタ紫苑に首を絞められたって言ってるけど、それは違うわ」
「……?」
身を起こしてジュリを見つめる奈緒。
ジュリは身を起こした奈緒の首筋にゆっくりと両手を伸ばす。
「だってほら、指の方向がおかしいわ。普通、他人に首を絞められたなら、親指が上向きになるはず。だけど」
ジュリは奈緒の首に両手を滑らす。
「この手形の痕の指先は下を向いてる。これってつまり、奈緒自身で首を絞めているってことよ?」
奈緒はジュリのその言葉に呆然とするのであった。




