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第16章-1

 汗が滴り落ち、蒸し暑い夜。佐久間 奈緒さくま なおはボーッと流れる景色を車の後部座席から眺めていた。



『あれ、なんで私はこんなところにいるんだろう?』



 奈緒はふと考える。そして視線を車内へと目を向ける。

同時に、隣に座っている友人から声を掛けられた。



「ナオー、どうしたのー? ……もしかして車酔い?」



「そんなことあるわけないじゃないっ、ちょっとボーッとしてただけよ」



 笑いながら奈緒は隣に座る友人の志村 紫苑しむら しおんに答える。

3列シートの1番後ろに座る奈緒と紫苑。そして2列目には迷惑そうな表情をした友人のジュリと冴えない男、運転席には2つ上の先輩である佐藤と助手席には奈緒が狙っている田中 篤たなか あつしが居た。



『ああ、そうだ。私、2人を誘って合コンにきたんだっけ……ん』



 奈緒はここで違和感を覚える。

まるで何回も見たような光景。それが強烈に脳裏にフラッシュバックする。



「……ねえ、紫苑。私たちってどこに向かっているんだっけ」



「えー、大丈夫? 記憶があやふやになるぐらいに飲んだの?」



「大丈夫よっ、でどこに向かってるの?」



「肝試しに行くって言ってたじゃない。行き先は知らないけど」



 奈緒の視界に一瞬ノイズが走る。



「えっ……?」 


 

 奈緒はノイズを振り払うように頭を軽く振る。耳につけた月を象ったイヤリングもまた、振り子のように揺れる。

そこでちょうど助手席で小野が佐藤と話しているのが耳に入る。



「先輩、肝試ししに行く場所って、どんなところなんですか?」



「ああ、何でも怪物が出るって言う廃病院だ」



「ええ~?」



 紫苑が素っ頓狂な声を上げる。

その声に反応して佐藤は芝居がかったかのように話し始める。


「いやいや、これ結構マジ話なんだよ。これは俺の兄貴から聞いたんだけどな」


  ――兄貴が中学二年生の頃だから、もう10年ぐらい前の話なんだけどな。兄貴の同級生に”ガンプ”ってあだ名の男子が居たんだ。ちなみにあだ名の由来はウスノロっていう意味らしいんだけど、まあ、やっぱりというかその”ガンプ”といあだ名の通り、普段から注意不足からかミスを毎日していたんだ。そんな悪目立ちをするヤツは大概、お笑い役かまたはいじられ役に回るよな? ”ガンプ”は当然、後者だった。今、考えると軽い発達障害だったのかもしれない。

見た目も小太りだったからか、いつの間にかいじりがいじめに変わってった。その頃だろうか、”ガンプ”はある超能力に目覚めたらしい。


いじめられっ子がいきなり超能力者に? 確かにうさんくさい話だ。まあまあ、そんな顔で俺を見ないでくれ。俺もこれは兄貴に聞いただけなんだからさ。


その超能力が『面白いことをしたら、どこからか大人数の笑い声が響く』っていうもんだった。一時期かなり有名になったんだぜ?

”ガンプ”がその超能力に目覚めてからは、一躍人気者になったんだ。だって、あまり受けないことを言ったとしても、どこからか笑い声が響いて、それにつられてみんなが笑っちまうんだから。

だが、段々とその超能力もおかしくなっていったらしい。

 

 ”ガンプ”が高校に入った頃だ。その超能力の範囲が広がっていったんだ。最初はヤツが心で面白いと思っていることに笑い声が反応するようになった。

それはそれで、ヤツは人気者だった。誰もが、面白い話をして、相手が笑ってくれたら嬉しいだろう?ここまでは良かったんだ。ここまでは。

 次第にその超能力が、”ガンプ”に関係の無い誰かが面白いことをしたり、話したりすることにも反応するようになった。その頃から、段々と、周囲から不気味がられる様になっていったんだ。

次にその笑い声が、他人がミスをしたら、笑い声が響くようになったんだ。その頃には、”ガンプ”はひどいいじめに遭うようになっていたんだ。

最後には自分がミスしても笑い声が響くようになっていったらしい。兄貴が最後に”ガンプ”を見たのが、誰も居ない教室に1人でじっと笑い声に耐えている姿だった。


 ここからは又聞きになるんだけど、”ガンプ”は高卒で就職したらしい。だが、そこでも”ガンプ”はその超能力に苦しめられたんだと。

職場でもミスを連発し、怒られ、その度にどこからか笑い声が響くんだから。

まあ、実際そんな超能力につきまとわれたら地獄だよな。3年はそこで頑張っていたらしいが、もう力尽きたんだろうな。

程なくして、悩んだ”ガンプ”は自殺を図ったんだ。


 ”ガンプ”は人気のない場所へと車を走らせた。トランクにはたっぷりのガソリンを乗せてだ。

そうして”ガンプ”は焼身自殺をしたんだ。だが、そこでもミスったんだ。何をミスったかって? 死ぬことをだよ。

”ガンプ”の焼け焦げた車は見つかったが、ヤツ自身はどこかに消えたんだ。


 それからだ。焼け焦げた車の近くの廃病院で焼け焦げた怪人が現れるようになったのは。噂だと誰かを探しているだとか。


 

 佐藤は得意げになって語り終える。

辺りは静かになり、息を飲む音しか聞こえない。一方でそこまで聞いた奈緒は視界のノイズと頭痛に襲われる。



「うっ……頭、痛っ……」



 奈緒は痛みから頭を抱えてうつむく。

そして、あることを思い出す。



「し、紫苑、あなた、もう、死んで……」



「え~?」



 

 ガツンと突然、奈緒の手首が掴まれて捻られる。

ノイズが走る視界で掴んだモノを奈緒は見る。



「なんでぇ、アタシぃ……だけぇ」



 そこには先ほどまで話していた友人の姿はなかった。

代わりに、頭蓋は砕けて右の眼球は垂れ下がり、皮膚が裂けて鮮やかな紅とぶにぶにしたピンクのまだら模様に染まった紫苑がいた。



「紫苑、や、やめて……」



 ギリギリと奈緒の手首が締め上げられていく。さらにもう片手で紫苑は奈緒の首を締め上げていく。

奈緒は前の座席にいるジュリに助けを求めようとするがいつの間にか車内には誰も居なくなっていた。



「……いやっ、痛い、やめ」



 呼吸が出来なくなり段々と意識が遠くなる。

そして完全に意識がなくなる瞬間、奈緒の耳に紫苑の怨嗟の声がへばり付く。



「なんでぇ、アタシぃ……だけぇ」



 そこで奈緒の意識は完全に闇へと落ちるのであった。

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